「農民」記事データベース20201207-1436-03

菅政権が自由化強行宣言

菅政権の巨大FTA推進を許さない

RCEP
東アジア地域包括的経済連携


「農業への影響はない」は
二重三重のゴマカシ

 中国を含む自由貿易協定(FTA)、アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP=アールセップ)協定が11月15日に調印されました。安倍政権のもとで結ばれた日米貿易協定やTPP(環太平洋連携協定)11、日欧EPA(経済連携協定)に続くもので、菅政権の自由化強行宣言です。

 RCEPはASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国と日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの計15カ国から成り、国内総生産(GDP)、人口ともに世界の3割を占める巨大自由貿易協定です。交渉に参加していたインドは、国内の反対の声におされて離脱しました。

 地球と人々を絶滅の危機から救うためには、新自由主義と自由貿易万能主義で世界を統合するグローバル化から脱却することが不可避の選択肢だ――これが新型コロナ禍が示した教訓でした。

 しかし、菅首相は、発足2か月後にRCEP協定を締結し、さらに「TPPを拡大して、太平洋自由貿易圏(FTAAP=エフタープ)の実現をめざす」と、破たんしたグローバル化推進にのめり込んでいます。

 アメリカ、中国、日本、ロシアを含む21の国・地域が参加するアジア太平洋経済協力会議(APEC)を「TPP化」するFTAAPが実現すれば世界貿易額の5割、GDPの6割を占める超巨大FTAになります。

 菅首相の思惑は何か――経産省関係者は次のように指摘しています。

 「総選挙を控える菅首相は、具体的な外交成果を挙げたがっていた。その点、RCEPの合意は『安倍内閣でもできなかった外交成果』と胸を張れる。しかも、TPPの時に日本が苦労した『主要5品目』の関税は手を付けずに済むので、損失は少ない」(「現代ビジネス」11月17日)

 グローバル化にのめり込む菅政権

 菅政権にとって、RCEPは渡りに舟といったところでしょう。しかし、まともな国家・世界ビジョンを示す能力を持ち合わせず、目先の成果を追求するだけの菅“近視眼”政権が超巨大FTAを推進するのは、狂人が刃物を振り回すようなもの。地球と人々の未来を託すわけには絶対にいきません。

 「重要品目と野菜は守った」はゴマカシ

 政府は「RCEPで重要品目と野菜は守った」「国内農業への影響はない」という宣伝に躍起ですが、二重三重のゴマカシです。

 現在、RCEP加盟国からの農林水産物輸入は約4兆円で全体の42%を占め、アメリカからの輸入1・6兆円の2・5倍です。

 RCEP協定では、米・牛肉・乳製品などの重要品目は、関税削減や撤廃を行わない「除外」扱いとされていますが、「更なる自由化のための再協議が5年後から行われる」と指摘されており、いつまで続くのか保証はありません。

 日米貿易協定やTPPでは、2国間の約束に再協議規定が隠されていましたが、RCEPでは未公表です。私たちは協定の全貌公表を強く要求します。

 一方、野菜・果実は「除外」ではなく、中韓を含むRCEP加盟国に対し、冷凍枝豆、キウイ、梨、柿、マンゴーなど10数品目の関税撤廃を約束しています。また、キャベツ、レタス、トマト、アスパラ、みかん、メロンなどについては、韓国向けには関税撤廃をしないものの、中国向けには関税撤廃を約束しています。

 「輸出がどんどん増える」は誇大宣伝

 政府は「日本からの輸出はどんどん増える」と宣伝していますが、農産物の重点品目である米と牛肉については、中国、韓国は関税を維持したままです。

 最大の輸出品目である自動車については、対韓輸出に関しては自動車本体の関税は撤廃されず、対中輸出に関しては乗用車の関税15%は維持されます。「輸出がどんどん増える」は誇大宣伝にすぎません。

 日中韓FTAに道開くRCEP

 RCEPは実質的に日本が中国と初めて結ぶFTAですが、中国はRCEPをテコにして停滞している「日中韓FTA」交渉の促進とTPP加入を狙っています。

 習近平国家主席は4月に「国際的なサプライチェーン(供給網)を我が国に依存させ、供給の断絶によって相手に報復や威嚇できる能力を身につけなければならない」と、覇権主義をむき出しにしました(日経11月16日)。また、中国政府は、品質が高い輸出用農産物の生産基地の建設を地方政府に指示しました。

 中国は日本の農産物輸入先第2位、野菜やりんごジュース輸入先では第1位、韓国はトマト、パプリカの輸入先第1位です。日中韓FTAに道を開くRCEPの脅威は明らかです。


日本が「加害国」になる危険性

アジアの民衆と連帯してたたかおう

 強調しなければならないのは、RCEPでは、日本がアジアに対する「加害国」になる危険性がきわめて大きいことです。交渉でASEAN諸国やインドが強く抵抗したテーマは、「知的財産」と「投資家と国家の紛争解決手続規定」(ISDS)問題でした。

 「知的財産」は農民の種子に対する権利を踏みにじり、安い医薬品の提供を妨げ、ISDSは国家主権を奪って多国籍企業の利益に奉仕する悪名高い条項で、アメリカと日本が他国の反対を押し切ってTPPに盛り込みました。

 交渉では、RCEPの「TPP化」を狙う日本が猛烈な圧力をかけましたが、TPP並みの規定は見送られました。

 しかし、ISDSについては、協定発効後2年以内に協議を開始し、開始から3年以内に完了することが義務づけられており、“継続協議”扱いです。

 種子については、TPPは種子に対する農民の権利を認めず、多国籍企業の種子支配を許すUPOV91(植物の新品種の保護に関する国際条約)加盟を義務化しました。さすがに、これは見送られましたが、UPOV91加入への「協力」条項が盛り込まれるなど“玉虫色”決着になり、火種は残ったままです。

 医薬品については、TPPと同様に「全ての人々の医薬品へのアクセスを促進する」とされていますが、TPPがこの美辞麗句からジェネリック薬品に対する規制を導き出したことを考えれば、決して楽観はできません。

 RCEPの「TPP化」、TPPの拡大、FTAAPを推進する日本政府と多国籍企業の横暴を許さず、アジアと世界の民衆と連帯してたたかいを強めることが求められています。

(新聞「農民」2020.12.7付)
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2020年12月

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