島根県自慢のモチ米品種
ヤシロモチを自家採種
郷土館の千歯コギで昔の脱穀に挑戦
“もらった同量の種を返す”
農村・農民の知恵の恩恵を実感
ヤシロモチの種籾(もみ)を自家採種しました。良い株を選んで手刈り・ハデ干しし、千歯コギで脱穀します。これまでハーベスター(脱穀機)を使ってきましたが、どんなに掃除しても、うるち米との混入が避けられません。
そこで今年は、地元、島根県邑南町の郷土館から千歯コギを借りて、昔の脱穀方法に挑戦。千歯コギは、足踏み脱穀機が発明された後も、種籾を傷めないので自家採種に長く活用されたと聞きます。
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千歯コギで種モミを脱穀中 |
結果として、いい体験でした。コツがわかると結構早くできることや、造りがよく考えられていることに驚きます。ただ、昔は一日中、そして何日もやっていたかと思うと気が遠くなりましたが。
千歯コギで脱穀したのは、単なる復古趣味ではありません。ヤシロモチは産地品種銘柄の必須銘柄で、県内どこでも検査を受けられる品種です。しかし、県の奨励品種から外れたため、JAから種籾を購入できなくなってしまったからです。
ヤシロモチは島根県農事試験場が1961年に「農林糯(もち)135号」として登録した、県自慢のモチ米です。後継ぎの品種は「ミコトモチ」といい、加工時にやや早く硬くなる傾向があるため、切り餅への加工適性が高いと高評価されているようです。しかし、昔からヤシロモチを食べ慣れた年寄りから「ヤシロモチが食べたい」と哀願され、知り合いから種籾を1キロほど譲ってもらい、生産を再開しました。
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ヤシロモチを脱穀する長谷川さん |
ところが種籾を取り忘れ、全部籾摺りしてしまったことも。その時は、わが家から種籾を分けてヤシロモチを作るようになった農家から、種籾をまた分け戻してもらいました。かつての農村にあった、「もらった種籾と同じ量の籾を、出来秋にお礼に返す」システムを、実践で学ぶことになったわけです。
自家増殖を原則禁止する 種苗法改定案
なんとしても廃棄に
農家は長い間、このように種籾を交換し、地域に合った品種を残す努力をしてきました。開会中の臨時国会では、自家増殖を原則禁止する種苗法改定の強行が狙われていますが、これはどうしてもやめさせなければなりません。
種取りなど少量を脱穀したい小規模農家には必需品の千歯コギ。驚いたことに現在も生産する会社があるようです。税込み6万円、ただし学校の教材用でした。郷土館から借りた千歯コギは、久しぶりにわが家で現役出動したことでサビが落ち、昔の黒光りが復活。千歯コギも喜んでいるみたい。
(島根県農民連 長谷川敏郎)
(新聞「農民」2020.11.2付)
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