この人
有機無農薬栽培に取り組む
諏訪部衛人(もりと)さん(62)
=神奈川県農民連・愛川町在住=
有機農業を通じ人間のあるべき姿を追求
神奈川県愛川町でブドウ、キウイフルーツなどをつくっています。ブドウはピアレス、オリンピア、安芸クイーン、ハニーブラック、シャインマスカット……。キウイフルーツは紅姫、イエロージョイ、アップル。その他、米と野菜を20アールずつ。
自然と共生する農業に挑戦する
23歳のとき、戦後直後からブドウ園を開園していた父、明さん(神奈川県農民連初代会長)のもとで就農しました。当時、農薬の人の健康への直接・間接的被害が問題になっており、35年前に「自然と共生する無農薬栽培にチャレンジしよう」と決意。今まで実践してきましたが、「ブドウの無農薬栽培はハウスを利用してできる可能性もあるが、露地栽培で無農薬は難しく、完璧にできたことはない」と振り返ります。自然栽培を理解してくれる多くのボランティアにも支えられ、虫や鳥との共生・共存、生物多様性を重視するなかでの営農です。「山の樹木は農薬や肥料なしで人間が手を入れなくても自らの生命力で成長する。自然栽培は、最低限人間がやるべきことをやり、植物にとっていい環境をつくることに最大限の努力を払うことです」
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諏訪部衛人さん。キウイフルーツとともに |
お客さんの喜ぶ声が後押しに
有機無農薬栽培を続けていくうえで後押しになっているのが、食べてくれるお客さんの声。「多少見てくれが悪かろうが、『味は最高』と喜んで、理解してくれるお客さんがいるからこそ、続けてこられたのです」
若手農家への支援に情熱をそそぐ
ここ数年、地域でも若手の農家が増えています。「愛川自然・有機農業者の会」を組織し会長を務め、若手農業者の面倒もみています。「遊休農地を大いに活用し、意欲ある人は農業に参入してほしい。有機農業の真髄を若手に伝えていきたい」というのが諏訪部さんの願いです。
国連の「家族農業の10年」を自ら実践。「家族農業の良さはきめ細かいところができること。こうして品質のよい作物ができる。有機農業は大規模ではできないんです」
生活の有り様を考え直さないと
コロナ禍で思うことがあります。「本来人間も自然の一部なので細菌やウイルスと共生関係にあるはず。だからこそ、今の危機に対して、座して待つのではなく、エネルギーへの依存性、過度の人口集中、効率だけを重視する生産の仕組みなどの『生活の有り様』を考え直す必要がある。今私たちに求められているのは、『with(ウィズ) コロナ』ではなく、『with Nature(ネーチャー、自然)』だと思います」
有機農薬を通じた人間のあるべき姿の追求と若手農業者への支援――諏訪部さんの挑戦は続きます。
(新聞「農民」2020.10.12付)
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