安全・安心、地産地消の
学校給食を子ども達に
和歌山市農民組合 貴志正幸さん
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給食スマイルプロジェクト〜県産小麦そだて隊!〜
地元産の小麦が給食パンになるよ!
「安全・安心な学校給食を」と運動を続けてきた農民連会員や新日本婦人の会会員らの努力が実り、和歌山県和歌山市で今年11月、和歌山市産の小麦で作ったパン給食が実施されることになりました。1校のみでの試験的な実施ですが、運動を進めてきた生産者・消費者はその「大きな一歩」に、大喜びしています。パン用小麦を供給することになった、和歌山市農民組合の貴志(きし)正幸さんの手記を紹介します。
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小麦畑に立つ貴志さん |
地元産小麦のパンを学校給食に
一昨年から1反ほどですが、パン用小麦を作り始めました。ニシノカオリという収量はやや少ないものの、比較的早くに収穫できる品種です。刈り取りがしやすいように平畝(うね)にばらまき栽培で、農薬と化学肥料は使わず、油かすのみを元肥・追肥にしています。
そもそもパン用小麦を作ることにしたのは、学校給食用の製パン業者と話をするきっかけがほしかったからです。実は以前から和歌山市や県に対し「食料自給率引き上げや残留農薬、地産地消の食育方針などを考えると、輸入小麦のパンなどより完全米飯給食に切り替えてほしい」と要求してきました。しかし、市は週5回の給食のうち2回のパン給食を減らさず、「それならこちらが直接製パン業者と親しくなって交渉してみよう」と思い、そのきっかけ作りに自分で作ったパン用小麦を製粉して持ち込むことにしたのです。
栽培も製粉も悪戦苦闘して
ところが、しばらく小麦を作っていなかったのでコツを忘れていて、肥料不足や刈り遅れ、倒伏、雑草繁茂と、悪戦苦闘が続き、田植え前の農繁期に大変な手間がかかってしまいました。その上、収穫作業もコンバインを使うと米に麦が混入してしまうので、バインダーで刈って地干し。その後、ハーベスターで脱穀して、さらに畳表に広げて天日干しを2回と、これまたこの時期にやれるものではない、たいへんな仕事となってしまいました。
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ハーベスターでの脱穀作業 |
製粉も苦労しました。子どものころは近所に製粉所があり、少量でも小麦粉などを挽(ひ)いてくれました。しかし今は近畿中を探しても、農家1戸程度の少量の小麦を製粉してくれる所はなく、30万円ほどの動力製粉機を購入し、何回も通し直しました。ところが手間ばかりかかって、歩留まりは3〜4割。ワラくずも唐箕(とうみ)を通してもうまく除けず、最後は手で選別しました。
「やはり製粉業者に頼まないと」と思い直し、さんざん探し回ってようやく岡山県の福田製粉という加工所で少量でも藁くずを除いて製粉をしてくれることが分かり、試しに30キロの小麦を送って、今年の3月、やっと19・5キロの小麦粉ができました。
分析センターの検査結果が力に
そんな栽培、製粉の苦労と並行しながら、地元の農民連の仲間や県や市の新日本婦人の会の皆さんとも協力し、食育と地産地消の給食づくりの運動にも取り組んできました。
その力となったのが、農民連食品分析センターが「市販のパンからの除草剤グリホサートを検出」(昨年4月)、「学校給食パンからもグリホサートを検出」(今年3月)と報じた新聞「農民」での2回の特集記事でした。
県の新婦人はこれらの記事に衝撃を受け、昨年8月に県の学校給食会と懇談。すると、担当者から「私たちも安全な地元産の小麦でパンを作れるとよいと思う。でも県内に小麦生産者がいない」と言われたとのことで、ちょうどパン用小麦を作り始めていた私との協力が始まりました。
よりよい中学校給食を考える会でもパン小麦の取り組みを報告。さらに今年からは海南市の休耕田を借りて、新婦人の若いお母さんたちと和歌山市農民組合、近隣の農家も一緒にパン用小麦を増産する「給食スマイルプロジェクト〜県産小麦そだて隊!」の取り組みへと発展しています。今、猛暑のなか、草刈りなどの準備作業に追われています。
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放棄地の除草に集まった“プロジェクト”の女性たちと子どもたち |
試食用パン持参で市などと懇談
また、わが家で採れた小麦粉で地元のパン屋さんに試食用のコッペパンを焼いてもらい、今年5月、そのパンを持参し、県の学校給食会、和歌山市の教育委員会や農林水産課とも懇談しました。
そしてとうとう、7月末に学校給食会から連絡があり、私の地元の小学校1校(児童数313人)だけですが、試験的に6回分のパン給食に、今年収穫の小麦を納入することになりました。輸入小麦とは10倍ほどの価格差となりますが、学校給食会も地産地消推進の立場から、予算を取ってくれたようです。
国産小麦の増産には公的な支援が不可欠
いまのところ私の小麦栽培は、まったくの赤字です。統計上はゼロになっている和歌山県内での小麦生産を復活させ、量産していくためには、やはりコンバイン、穀物乾燥機などの大型機械類の整備は必須です。また輸入小麦との価格差も大きく、行政の支援が不可欠です。
もっともっと運動を強めて小麦を増産し、ひと月に1回くらいは地元産の小麦のパンや麺類を出せるようにしていきたい(もちろん米飯給食も大切です)と思っています。
(新聞「農民」2020.9.21付)
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