『国連家族農業10年』
コロナで深まる食と農の危機を乗り越える
岡山大学名誉教授 小松泰信さん
(長野県農協地域開発機構研究所長)
まさに時宜を得た刊行
コロナ危機で浮き彫りになった食と農の危機や社会の脆弱(ぜいじゃく)さを克服するために必要なことは? 持続可能な新しい社会はどうなる? 農民連が刊行した書籍『国連家族農業10年』について様々な人たちに語ってもらう新シリーズを開始します。最初に、岡山大学名誉教授の小松泰信さんに寄稿してもらいました。
本書刊行の最初の狙いは、「国連が決議した『家族農業の10年』が全国津々浦々に深く浸透し、持続可能な社会と農業に転換する一助になること」にあった。そこに新型コロナウイルス感染拡大という不測の事態。それによって、「日本の食と農の基盤の脆弱さが露呈」され、「農政のゆがみ」が浮き彫りになったことで、「小規模・家族農業を、持続可能な社会をつくる力と位置付け」た『家族農業の10年』の理念と実践の価値を高める機会となった。まさに時宜を得た刊行である。
「第1章 新型コロナがもたらした世界の食と農の不安 その背景にあるのは…」では、世界的な動きを分析し、コロナ禍によって不公正な社会を背景とした「食と農のゆがみ」とアグリビジネスによる環境破壊が浮き彫りになったことを明示する。
「第2章 コロナと日本の食と農、そして家族農業」では、「三依」政策、すなわち「食料輸入」「食品輸出」「外国人労働力」への依存政策を指弾する。そして日本農業の底力をいかすために、(1)歯止めなき輸入自由化をストップ、(2)生産コストを償う価格保障の実現、(3)新しい農の担い手を確保し、老・壮・青のバランスのとれた家族農業経営の維持・発展、を提起している。
「第3章 家族農業は持続可能な新しい食料制度の柱」では、多くの家族経営が経済的に苦しい状況にあることを示し、支援と運動の必要性を説く。なかでも、「コロナ禍のベーシックインカムを求める世論の高まりを受け、所得補償・価格保障を速やかに確立すること」を求め、戸別所得補償の復活と日本型直接支払の大幅引き上げを提起している。異議なし。
「第4章 国連家族農業の10年で持続可能な社会を創る」では、里山、ジェンダー平等、思いの聞き取り、ソーラーシェアリング、産直、学校給食、マイペース酪農、という切り口で農民連会員の多様な実践や模索を紹介している。とくにマイペース酪農は、鈴木宣弘氏(東大大学院教授)による推薦のことばに記された「本当に持続できるのは、人にも牛(豚)にも環境にも優しい、無理をしない農業だ」を証明している。
なお産直については、新日本婦人の会と農民連の両会長による特別対談が、コロナ禍によって両組織の結びつきが、より強まったことをうかがわせている。
「第5章 新しい社会へ 舵とる世界」では、韓国、ドイツ、アメリカにおける持続可能な社会を築いていこうとする動きが紹介されている。韓国において、農民組織が要求してきた「農民手当」を採用する基礎自治体が少なからず出てきていることや、中央政府も小規模農家のベーシックインカムの水準を支えることを意図した、直接支払いの見直しに取り組んでいることなどは、極めて参考になる。
「魂の共有」多くの方に
2編のコラムは、脅かされ続ける食品の安全性と種子に対する農民の権利の制限、という食料主権の侵害事案から警鐘を鳴らしている。
「規模は小さく、志は大きく コロナに動じない百姓力で世界を動かす」という、山下惣一氏(農民作家)が寄せた玉稿のタイトルが、本書の魂を言い表している。
多くの方が、この魂を共有されることを願ってやまない。
(新聞「農民」2020.9.21付)
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