「農民」記事データベース20200622-1413-05

飼養衛生管理基準の見直し
「放牧中止」規定盛り込み

パブコメに異論噴出


農水省が撤回へ

 農水省が7月1日公布をめざして見直し作業を進めている、豚や牛などの「飼養衛生管理基準」に、「放牧中止」の項目が盛り込まれていることが5月半ばになって突然、判明。農民連・畜全協は、放牧中止の規定の削除などを求めるパブリックコメント(国民からの意見募集)を送付しました。同様のパブリックコメントは多数にのぼり、事実上の「撤回」に追い込まれるという事態が起きています。

 今回の改定は、一昨年に国内で26年ぶりに豚熱(CSF)が発生したことや、中国・アジアなどでアフリカ豚熱(ASF)が感染拡大していることを受けて、今年4月に家畜伝染病予防法が一部改正され、これを「飼養衛生管理基準」として具体化するかたちで行われるものです。

 しかし豚・いのししだけでなく、同時に改定される牛や山羊などの飼養衛生管理基準でも、「大臣指定地域での舎外飼養の中止」や、「放牧中止に備えた畜舎の確保」という規定が盛り込まれました。「大臣指定地域」には、豚熱の予防的ワクチン接種が行われている24都府県が指定される見通しで、この区域内では公布後間もなく豚の放牧ができなくなるという政策の大転換が盛り込まれていたわけです。

 とりわけ問題なのは、農水省がその科学的根拠を明確に示さなかったことです。豚熱では野生イノシシに感染が拡大していることから「放牧は野生動物と接触しやすい」ことを理由にあげたものの、放牧中止を必要とするほどの科学的根拠は全く示されず、短期間のうちに放牧豚の生産者のみならず、酪農など幅広い団体から「放牧中止規定の削除」を求める意見が相次ぎました。

 こうした声に押され、農水省は6月12日の審議会で、改定案から「放牧中止」規定の削除を提案するに至りました。

 放牧は、近年、多面的機能や持続可能な循環型農業の実践として、またアニマルウェルフェア(=快適性に配慮した家畜の飼養管理)の観点からも大きく注目され、3月に決まったばかりの「食料・農業・農村基本計画」でも高く位置付けられています。

 家畜伝染病予防に今求められているのは、大規模経営や密飼いなどの畜産のあり方を見直して持続可能な畜産へと転換させていくことです。科学的根拠と説明なしに、短期間に変更方針を打ち出し頓挫した、農水省の姿勢が厳しく問われています。

(新聞「農民」2020.6.22付)
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2020年6月

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