コロナ禍で農家民宿は…福島 安達地方農民連 菅野まゆみさん放射能に続きウイルスとも目に見えないたたかい“遊雲の里だより”で近況報告里山の恵み、地域の力を発信農家民宿“遊雲(ゆう)の里”(福島県二本松市東和地区)は、4年前の4月下旬にオープンしました。母が野菜の出荷で使っていた土間と、牛がいなくなったままの牛小屋、東日本大震災で土壁が崩れてしまった土蔵をこのまま残しておくのではなく、農家民宿という都市と農村の交流の一つの拠点になるものをつくりたいと思いました。パンフレットには、“放射能に汚染された福島だからこそ、農の価値、里山の恵み、地域の力、耕す福島を発信していきます”と書きました。以前から東和地域では、グリーンツーリズムを推進するため、東和子ども交流プロジェクトを立ち上げ、教育旅行で子どもたちに農家の暮らしを体験してもらおうと取り組んでいました。 そのために農家民宿の許可も取ろうとがんばっている最中の原発事故。目に見えない、どこにあるのかさえもわからない放射能とのたたかいが始まりました。子どもプロジェクトはとん挫、放射能で汚染された地域に子どもたちを呼び込むことはできなくなりました。
農業イベントや体験ツアーに取り組みしかし、東和地域に大学の研究者や関係機関の方々が調査・研究のために入ってきたり、マスコミやボランティアの人たちが訪ねてきてくださったりと、おとな相手の交流が進むなかで、地域ぐるみで農家民宿の立ち上げを行い、現在24軒が許可を得ています。わが家では、22年前に養蚕小屋を加工所に改築、飲食業(仕出しやおこわ、赤飯、餅など)、菓子製造業、総菜業などの許可を得て、加工にも力を入れてきました。娘が始めた農業イベントや体験ツアーには、餅つきやいちご大福づくりも取り入れ、とりたて野菜のバーベキューや食事も好評で、そんな中からここ東和に新規就農された方や、田んぼオーナーになってくださった方もいます。 新緑の中を走るカラフルな都会のバスや車が田んぼに横付けされ、青空の下、キャーキャー声が里山にこだまし、小鳥のさえずりやさわやかな風のなか田植えをする。そんな毎年繰り返されていた当たり前の光景が、今年は全然見られなかったことをとても悲しく感じます。
大地に足をつけ、食を生産する暮らし今は解除されましたが、経験したことのない緊急事態宣言が発令され、また目に見えない新型コロナウイルスとのたたかいの日々になりました。県をまたぐ移動自粛により田んぼオーナーさんからの「田んぼに行けない」という悲痛な声、ボランティアさんの「今すぐ行って田植えしたい」というありがたい声、そんなみなさんに近況をお知らせしたくて、“遊雲の里だより”を発行しました。 日中、農作業で疲れていても、夜は宿帳をめくりながらのあて名書きです。こんな山の中にたくさんの方に来ていただいた感謝の気持ちと築き上げた交流の縁を大切にしていきたいと考えています。 そして改めて気づいたのは、やっぱり人間らしい暮らし、生き方はここにあるということ。大地に足をつけ、食を生産しながら暮らし、ウイルスを近づけない体づくりの基本が田舎にはあると思うのです。“新しい生活様式”を取り入れながらの都会生活は、本当に過ごしやすい暮らしと言えるでしょうか。 ◇ 農家民宿「遊雲の里」 (新聞「農民」2020.6.15付)
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