「農民」記事データベース20200504-1407-03

家族経営の位置づけ
基本計画に一定の変化

新基本計画を斬る
(下)

家族農業支援、自給率向上へ政策の転換を


 この連載の「上」「中」では、新「食料・農業・農村基本計画」が過去最低に落ち込んだ食料自給率を引き上げるものにはなっていないこと、農林水産物・加工食品の「輸出目標5兆円」という大ボラを唯一の目玉政策にせざるをえないことを指摘し、安倍政権の行き詰まりを明らかにしました。

 今回は「家族農業」は重視されたのかについて検証します。

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新基本計画への提案を発表する「家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン」の記者会見(1月31日)

 「家族農業の10年」国際的な変化に押されて

 新計画は「多様な経営体が我が国の農業を支えている現状を踏まえ、中山間地域等における地理的条件……など地域の実情に応じ、家族・法人の別など経営形態にかかわらず、経営改善を目指す農業経営体をその他の多様な経営体として、営農の継続がはかられるよう配慮する」と述べています。

 江藤拓農水大臣も「規模の大小や中山間地域などの条件にかかわらず、農業経営全体を底上げすることを打ち出した」とコメントしています(日本農業新聞4月7日)。

 これは、安倍農政が「担い手」以外の農家を“余計者”扱いし、政策対象外に置いてきたのに比べると一定の変化です。

 この変化の背景にあるのは、国連「家族農業の10年」に代表される国際的な流れと、日本国内の運動です。

 日本政府も賛成した「家族農業の10年」決議は、飢餓と貧困をなくし、環境と生物多様性を保全するうえで重要な役割をはたしている家族農業に対する支援を強調しました。そして、この政策を推進するため、国連は各国に「プラットフォーム」(拠点)を作ることを呼びかけ、日本では、農民連・食健連も加盟する「家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン」が結成されました。

 同プラットフォームは農水省や全国農協中央会、全漁連などと懇談するとともに、新基本計画に対し「家族経営の農林漁業が果たしている重要な役割を再評価し、新基本計画に家族農林漁業への支援を明確に位置づける」ことを提言しました。

 鈴木宣弘東大教授によると「その他の多様な経営体」は「農水省の一部部局の反対を抑えて加えられた」といいます(農業協同組合新聞4月16日)。こういう拮抗(きっこう)の中で、国際的な流れに押されて変化が生まれたといえるでしょう。この変化が本当に結実するかどうかは、私たちのこれからの運動にかかっています。

 ベースはあくまでも規模拡大

 同時に、これを手放しで評価するわけにはいきません。

 新基本計画は「家族農業の10年」にも「農民の権利宣言」にも一切言及せず、黙殺したままです。新計画のベースはあくまでも企業的農業を含む大規模化であり、これに8割の農地を集中させる方針に変わりはありません(図)。

 新計画がいう「その他の多様な経営体への配慮」は、一見「家族農業」重視のように見えますが、しょせん「その他」扱いであり、中小・家族経営は「地域の下支え」、大規模経営の「協力」相手程度の位置づけにすぎません。

 「半農半X」にも触れていますが、単なる一事例です。

 持続可能性と多様性

 「岡山県地域おこし協力隊ネットワーク代表」の藤井裕也氏は、日本農業新聞のインタビューで、若者の声を代表して次のように発言しています(4月15日)。

 「三つ、四つと仕事を組み合わせて生活をするスタイルは当たり前になってきた。専業がプロで、いろいろなことをやるのは中途半端、という時代ではなくなってきている」「田園回帰の潮流は、新型コロナウイルスが収束すれば、確実にさらに広がるだろう」「(新基本計画を)持続可能性、多様性を追求して、地域の未来を耕す土台にしたい」

 「家族農業の10年」が動き出した時節柄、従来のように中小・家族経営を排除すると公言するわけにはいかず、そうかといって政策を根本的に転換する気もない――。こういう中途半端さに対する若者の率直な意見として、真剣に耳を傾けるべきです。

 「家族農業の10年」と新基本計画の10年を重ねて

 安倍政権が動き出した2013年から18年にかけて、「担い手」への農地集積割合は49%から56%に高まりましたが、農作物作付面積は417万ヘクタールから405万ヘクタールに減り、食料自給率は39%から37%に落ち込みました。

 つまり、規模拡大一辺倒で大規模経営に施策を集中するやり方では、農業生産は増えず、自給率の向上にも結びつかなかったことは明らかであり、基本計画にすべての家族農業への支援を明確に位置づけ、自給率向上を第一義とした政策に転換することこそが求められています。

 「家族農業の10年」と新基本計画の10年は重なりあっています。私たちは家族農業を支援し、日本の農と食を建て直すための農政の抜本的転換を求めてたたかいます。

 このたたかいは、輸入自由化と家族農業つぶしの歴代自民党政権の害悪を最大化している安倍政権打倒、野党と国民の共同による連合政権の樹立と結びつかざるをえないでしょう。

(おわり)

(新聞「農民」2020.5.4付)
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2020年5月

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