「農民」記事データベース20200427-1406-02

「輸出拡大のチャンス」!?

新基本計画を斬る
(中)

「輸出目標5兆円」の大ボラは
二重三重のゴマカシ


食料保障と持続可能性に
背を向ける安倍農政の転換を

 新「食料・農業・農村基本計画」は、TPP(環太平洋連携協定)11、日欧EPA(経済連携協定)、日米貿易協定が動き出してから初めての基本計画です。これは、5年前の旧基本計画との一番大きな違いです。日本農業を壊滅に追い込みかねない戦後最悪の総自由化体制にどう臨むのか――これが新基本計画に問われていた課題でした。

 しかし、答えは完全な「肩すかし」でした。新基本計画は、TPP11、日欧EPA、日米貿易協定により、日本は「名実ともに新たな国際環境に入った」「新市場の開拓をめざす」と述べ、きびしい現実には全く目をそむけて「輸出拡大のチャンス」だけを強調。「輸出5倍化・目標5兆円」を唯一の目玉政策に仕立てています。

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日本の原風景の棚田(新潟県十日町市)

 そもそも工業製品でも、輸出額5兆円以上の品目は自動車だけ(16兆円)。自動車の「自給率」は185%で、85%は輸出向け生産です。食料自給率わずか37%の日本が、自動車に次ぐ5兆円もの農林水産物・食品を輸出するなどというのは、身のほど知らずの大ボラというべきです。

 目くらましにはだまされない

 第一に、農産物輸出が5878億円(農林水産物・食品輸出は9121億円)に増えたと自慢していますが、農産物輸入は6兆5946億円で、輸出の11・2倍にものぼります。安倍政権が動き出した2013年と比べると、国産農産物市場は差し引き1839億円縮小した計算になります(1)。

 日本の食料自給率が異常に低下した原因は戦後自民党政権の自由化政策にあり、戦後最悪の総自由化を進める安倍政権のもとで、農産物生産が半減し、自給率が14%に落ち込む危険は強まっています(2)。

 「自国の食料も満足に確保できないのに、輸出拡大を目指すという政府の考え方は理解に苦しむ」(北海道新聞社説、4月7日)。

 総自由化強行の責任を回避し、国民の目をそらすために輸出を持ち出す――こんな目くらましにだまされず、日米FTA(自由貿易協定)にまで突き進む安倍政権の暴走をストップさせ、真剣に自給率向上を実現する農政へ――いま頑張り時です。

 謎の「食品」、輸入原料の加工食品も「農産物」?

 第二の問題は「農産物輸出」の中身です。19年の農林水産物輸出のうち8割は加工食品と水産物が占め、国産農産物は多めに見て15%、少なく見ると10%にすぎません(3)。

 日本農業新聞によると、「農産物」輸出額のトップは「さまざまな食品類の寄せ集めで中身は分からない」(農水省)という「各種の調製食品のその他のその他」。「有機化学品」や「ゴム製品」など食品とは言えないものまで含まれています(20年2月9日、19年4月8日)。同紙の山田優特別編集委員は「こうした謎の『食品』が含まれている農産物輸出額を、政策目標とすることにどのような意味があるのか」と指摘しています。

 しかも、コロナウイルスの影響もあり、輸出は急減しています。全農幹部は、欧米向け和牛輸出について「飲食店の営業規制などで輸出できる見込みが立っておらず、ほぼゼロになるかもしれない」と見通しており、新計画は出足からつまずいています(産経新聞3月24日)。

 自民党幹部からも「目標達成の裏付けはない」「(無謀な輸出拡大目標を掲げれば)基本計画の実現性まで疑問視されかねない」との声が相次ぎました。しかし、輸出拡大を「攻めの農政」の象徴としたい首相官邸が押し切ったといいます(日本農業新聞3月26日)。

 ギゾウ・ネツゾウは安倍政権の得意技ですが、偽造・水増しの農産物輸出目標を新計画の唯一の目玉政策にせざるをえない――この政権の行き詰まりは明らかです。

海外の金持ちに日本産農産物、
日本の庶民には輸入食品

 外国の富裕層に「安全でおいしい」 国産農産物を輸出?

 第三の問題は、「5兆円」にこだわった結果、農林水産物全体で19年実績の5・5倍、農産物・加工食品では6倍以上になるなど、目標が異様にふくれあがっていることです。「5兆円」という目標に辻つまを合わせるために、実現性を無視して水増しを重ねた様子が見てとれます。

 10年後には現政権の影も形もありませんから、無責任に偽造・水増しの輸出目標をでっちあげたとしか言いようがありません(3)。

 その結果、どういう事態が起きるか――。

 たとえば牛肉の2030年輸出拡大目標は19年実績の12倍の3600億円ですが、生産目標は1・2倍の40万トンです。40万トンを現在の牛肉産出額から推計すると9235億円。単純に金額(産出額)ベースで計算すると約4割が輸出に向けられ、国内消費は19%減になります。同様の計算で、水産物は6割が輸出に向けられ、国内消費は30%減になります(4)。

 この構図は、外国のお金持ち向けに「安全でおいしい」国産農水産物をせっせと輸出し、日本の庶民には輸出食品を食べさせるものにほかなりません。

 輸出依存の転換を今こそ

 「高齢化で消費が減る」と言いますが、食料自給率わずか37%の現状で、需要の減少を心配するより、50%、60%へと引き上げることを考えるべきです。

 新型コロナ禍で、輸出・輸入依存がいかに危険であるかが明らかになった今、これまでの政策をさらに強化する新基本計画は、国民の命と健康を守る食料保障とも、持続可能性とも無縁です。安倍農政の転換こそがいま求められています。

(次号につづく)

(新聞「農民」2020.4.27付)
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2020年4月

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