「農民」記事データベース20200427-1406-01

新型コロナ 感染拡大止まらず

農家経営に大打撃


和牛の価格が大暴落
需要冷え込み深刻化で

宮崎
リポート 県農民連事務局長 来住誠太郎さん

 宮崎は和牛の一大産地ですが、いま和牛の枝肉と子牛の価格が急落し、多くの生産者が強い不安とたたかう毎日を送っています。

 例年であればクリスマスや年越し需要が増大する年末には牛肉の価格が上がりますが、昨年は10月に始まった消費税10%増税、日米自由貿易協定を先取りした輸入牛肉の宣伝などで年末から価格の下落が深刻化し始めました。さらにここに来て新型コロナウイルスの感染拡大による外食や輸出などの需要の冷え込みが重なり、枝肉相場は急落。2014年以来の最安水準に落ち込んでいます。

 この3つの相互作用は、和牛の消費を直撃しています。いま、家畜市場では出荷制限がかかり、肥育農家は「市場に牛を連れてこないでくれ」と言われています。

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人なつっこい黒毛和牛の子牛(宮崎県都城市)

 一方、肥育農家からも、「今は出荷したくない!」という声が上がっています。それというのも、「3月に出荷したら枝肉価格は88万円だった。その素牛は80万円で購入した子牛だったから、2年半も育てて、ほとんど同じ値段でしか売れなかったということ。飼料代分、ほとんど赤字だ!」という苦しい実情があるからです。

 今と同じ低価格だった2014年当時の素牛は40万円ほどだったので、現在の価格下落が与える経営への打撃は深刻です。

 しかし、食べておいしい牛肉になるよう、出荷に向けて仕上げに入っている牛を出荷せずに牛舎に残しておくのも、肥育農家にとってはたいへんなことです。余分な飼料代が負担になる上に、仕上げ段階の牛は事故が起きやすく、「出荷前に死んでしまったらそれこそ最悪だ!」とある肥育農家は苦悩を話してくれました。

 マルキンだけでは支援は不十分

 和牛農家の経営支援としては、粗収益が生産費を下回った場合、差額の9割を補てんする「肉用牛肥育経営安定交付金(牛マルキン)」という制度があります。しかし発動には最低でも2カ月はかかるほか、「9割では損失をカバーしきれない。しかも生産費の基準価格の算定が低すぎて、実際の損失補てんにはまったく不十分だ」というのが、肥育農家の現場の声です。

 また、枝肉価格下落を受けて、子牛価格も3月度は1頭68万円に下がりました。子牛を出荷する繁殖農家は「今はなんとか踏ん張っているが、これ以上は下がらないでほしい。しかし枝肉価格が下がったままでは、肥育農家が新たな子牛を導入することもできない。畜産全体に経営難が波及していく」と不安の声を寄せています。

 肉牛にしても子牛にしても、牛を売っても、経費を精算すると通帳にお金が残らないという現状のなかで、宮崎県農民連では今後、飼料代の支払いにも困る和牛農家が出るのではと懸念しています。まずは、すべての組合員に実態アンケートを実施して、「農民の苦悩あるところに農民連あり」を実践的な運動にしていきます。


国の緊急対策は宣伝・広告が中心

農家への直接支援強化を

 安倍内閣は4月7日、新型コロナを受けて108兆円にのぼる緊急経済対策を発表(その後、一部を大幅見直し)。農林水産関連予算は5448億円ですが、牛肉や花きなどの販売促進や割引食事券の発行等の需要喚起策(実施するのは収束後の6カ月間)が中心で、農家への直接支援策はきわめて薄い内容です。

 しかし、中には金額は不十分ながらも、1頭当たり2〜4万円を支援する肥育生産支援や、肥育農家や繁殖農家に対する出荷延期に伴う掛かり増し経費(飼料代など)の支援、緊急貸し付けの融通などの支援メニューもあり、これらを活用しつつ、更なる抜本的支援策を求めて、運動を強めていく必要があります。


イチゴ狩り来客数4割減
「自粛」も休業補償が必要

静岡
イチゴ狩り農園を経営 松井厚さん

 静岡県浜松市でイチゴ狩り園を営む松井厚さん(68)。松井さんは、浜名湖・舘山寺温泉に向かう街道沿い・フラワーパークの正面ゲート前という立地条件のいい場所で、地元のイチゴ農家7件と一緒に直売所兼いちご狩りの案内所「アグリス浜名湖」を約25年前に立ち上げ共同経営してきました。

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春は多くの観光客でにぎわう「アグリス浜名湖」のイチゴ狩り(オオゼキ写真印刷提供)

 松井さんたちは「章姫(あきひめ)」「紅ほっぺ」という品種の甘くて大粒のイチゴを栽培し、お客さんも順調に増やしてきました。昨シーズンは、約9万人の来場者がありましたが、今年は5万人台にとどまり4割減の大減収です。

 2月下旬の安倍首相の突然の「一斉休校宣言」で減少。3月の連休で持ち直しかけたものの、東京などでの感染拡大の中で減少し、「緊急事態宣言」でとどめを刺されました。

 いつもは5月の連休まで営業していたのですが、「3密を避ける」との判断で今年は4月12日でいちご狩りは終了。それでも長くやった方で、静岡市久能の石垣イチゴや伊豆の観光いちご園はもっと早く「自粛」したそうです。「私たちのような観光農園の『自粛』に対する『休業補償』があるのか、誰に聞いてもわかりません。108兆円もの対策費はどこに行ったのでしょうか」と困惑しています。

(新聞「農民」2020.4.27付)
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2020年4月

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