企業の利益優先、営農圧迫
とんでもない種苗法「改定」
現場から怒り噴き出す
種苗法改定案の国会審議が強行されようとしています。農業の現場から改定案に反対の声があがっています。(日本の種子を守る会会長の八木岡努さん、同幹事長の山本伸司さんは、2月20日に開かれた緊急院内集会での報告要旨から)
サツマイモ
サツマイモ生産者 中島悟さん(茨城県阿見町)
種苗法改定によって登録品種の自家増殖が禁止されると、苗をつくった場合に、「許諾料」が必要になるという問題があります。
干し芋生産日本一の茨城県で、原料の「紅はるか」を4・5ヘクタール作付けている中島悟さんは、10アールあたり2500本、総数で11万2500本の苗が必要だといいます。
この本数の苗を確保するためには、1本50円のウイルスフリー(別項)の苗を毎年2千本購入し、苗用の芋を育てます。翌年にとれた芋から良い芋を選別して苗床に伏せこみ、5〜6節まで伸びたツルを生え際から切り取り苗として畑に植え付け、サツマイモを収穫します。
中島さんは「11万本を超える苗をすべて購入するとなると費用がかさむ上、単価も値上がり心配です。また、苗を外に頼むと、適期作業に支障をきたすことになりかねません。自家増殖の場合の許諾料もどれくらいになるのか…」と、経営への影響を心配します。
環境に合わせて進化する“種”
サトウキビ
サトウキビ生産者の山本伸司さん(日本の種子を守る会幹事長)
台風に悩まされる南西諸島や沖縄ではサトウキビに替わる農作物は他にないので、主たる農業になっています。
サトウキビは刈り入れ後、良いキビを選び、2節ぐらいを切って畝に植え込むと、切り株からまた新しい新芽が出てくるので、それを大きく育てて収穫する、というのを4、5年繰り返し、最後は種をとって更新する、という栽培方法です。
なぜ自家増殖が必要なのか。作物は栽培しているとだんだん自分の畑に適合してきます。種は環境的作物で、同じDNAであっても環境に合わせて進化するのです。種自身が自分で考えてその畑に適合して変化することを、農家はよく知っていて、こうした進化をよく観察しながら選抜と増殖を2〜3年繰り返し、自分の畑に合った種をつくっていくわけです。
農家の現場も知らずに、企業の「知的財産」だけ守るのでは、いったい誰のための改定なのでしょうか。
農家の選抜と自家増殖で畑に合った種に
イチゴ
JA水戸組合長 八木岡努さん(日本の種子を守る会会長)
私はイチゴを50アールぐらいつくっています。
イチゴ農家は、成長点培養したウイルスフリーの株を買って植え付けます。購入した親株の中から、花の付き方や花の数、実の形や味など自分の畑にあった株を選別し、その株から伸びたライナーを切って仮植し、苗として育て、秋にハウスに定植し、翌春、収穫します。
収穫後の株からさらに選抜した株のライナーを苗として育て、3年目の株として利用します。
ところが、3年目の株にはウイルスによる病気が出始めるため、収穫後の株は廃棄し、3年ごとにウイルスフリー苗に更新しています。
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茨城県鉾田市の細谷勇一さんが裁培するイチゴ |
こうした自家増殖はイチゴに限らず、在来種など多くの作物で行われています。一昨年の種子法廃止は影響が出るまで5〜10年という長期間かかりますが、自家増殖を制限するという今回の種苗法改定は、すぐにでも農家に影響が出ます。それは巡り巡って在来種を守ることにもつながりますし、農業だけでなく地域の文化や食べ物を守ることにもつながっていく問題です。
(別項)ウイルスフリー苗とは
種子でなく繁殖で増やすサツマイモやイチゴなどの作物は、作り続けるとウイルスが侵入し、その侵入した株を親として増殖させた苗を利用した場合、品質の悪化や最悪の場合は株が枯死することもあります。これらを防ぐため1950年〜60年代にかけて、ウイルスにかかっていない成長点培養などを活用した「ウイルスフリー」苗が開発され、その苗を親とし、翌年それぞれの生産者好みの苗を選別する技術が普及しました。
(新聞「農民」2020.4.13付)
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