東日本大震災・福島原発事故から9年
政府の「水産改革」に抗し、
資源と漁業守る
岩手県漁民組合副組合長
瀧澤英喜さん(63)
(大船渡市)
息子が帰郷、親子で漁業に
私が漁業を営む岩手県大船渡市三陸町越喜来(おきらい)の崎浜は海と山にはさまれた集落です。11・5メートルの防潮堤がほぼ完成し、海が見えず塀にかこまれたような地域になってしまいました。復興土木事業はこれでほぼ終わりです。高台の下には、流された建物の基礎と雑草ばかりの空き地が残りました。
|
崎浜漁港。防潮堤の奥に集落が |
津波で船と資材が甚大な被害
私の自宅は海抜50メートルのところにあり、家屋敷は津波を免れました。船と倉庫・養殖施設・資材が全部被害を受けましたが、2013年に船を新造。春は毛ガニ漁、5月はホタテ養殖の耳つり作業、夏はタコ・ツブ貝の漁、秋は養殖ホタテの出荷…と、年間を通して海で稼いでいます。
海温上昇で漁獲量減少
自然環境の変化は深刻で、海水温が上がっているのです。ホタテ養殖は、以前は貝の9割を出荷できていましたが、昨年は7月末に水温が上がり、6割が死滅するという大被害でした。魚は全般的にとれなくなっています。
震災前には20軒以上の仲間がホタテ養殖をやっていましたが、いまでは7軒です。漁船漁業者もかなり減りました。消防団員も45人いましたが、15人しかいません。こういった地域活動は、やはり漁師をはじめとした自営業の人でないと十分に参加できません。
サケ刺網漁求め裁判をたたかう
沿岸漁業に背を向けている水産行政も大問題です。身近なところでも、10センチメートルの小さなイカをトロール船が根こそぎとっていたので水産庁に抗議しましたが、「TAC(漁獲可能数量)の範囲内」と規制しません。悪いやつらが不起訴になる安倍政権の体質そのものです。
県の対応もひどいものです。私たちはサケ刺し網漁の許可を県に求めて、裁判まで起こしてたたかっています。裁判の中では、サケ刺し網の不許可処分をわずか3人の県職員が決めたという実態が明らかになりました。
もう自分たちでやれることをやっていかなければなりません。漁船漁業者は震災前から、資源を守る努力をしています。毛ガニについても「殻長7センチメートル以上」という基準を「8センチメートル」に改めて、できるだけ大きく育ててから採るなどの工夫をしてきました。
家族漁業基本に共同・協業化を
大事なのは、自分の経営だけではなく浜全体の漁業を守ることです。この点で、協業化がこれからは必要になってくると思います。養殖では、機械と人手が十分にあれば、実際に海に出す船は1隻でも済むという場合が多いのです。また、漁船漁業も隻数を絞って漁場に行った方が効率もよくなります。自分の船をメンテナンスしているときに、仲間の船に乗って休まずに稼ぐこともできます。
政府の「水産改革」はそういった「効率化」を大企業が入ってやろうとしているわけです。しかしそれでは地域全体を守れません。家族経営の漁業を基本に、自主的な共同を進めていくことが必要です。
震災のとき高校1年生だった息子が、昨年10月に水産加工会社を退職して帰ってきました。親子での漁業が始まりました。「養殖・漁船漁業をやりながら、釣り船をやってはどうか」という話もしています。息子は魚をさばく技術を身につけているので、お客さんが釣った魚をさばいて持ち帰ってもらったりできるのではないか…。そんな希望も膨らみます。
(新聞「農民」2020.3.30付)
|