大規模・集積化が極端に進行
地域農業の振興が大きな課題
リポート
宮城・矢本農民連 長谷川博さん(70)
(東松島市)
農村社会の多面的な機能
維持する役割発揮も期待
9年前に被災するまではキュウリも栽培していましたが、いまつくっているのは米だけです。1991年から旧矢本町の町議を務め、2005年に合併で東松島市議になり、今日に至っています。
東日本大震災・福島原発事故から9年
甚大な津波被害に改めて驚き
震災で甚大な被害を受けた東松島市ですが、ハード面での復興は着実に前進しています。
市の大震災の犠牲者は、行方不明者も含め1133人。家屋の被害は5499棟、大規模な半壊は3054棟、半壊は2501棟、一部損壊が3510棟で、2013年当時の世帯数1万5080戸の73・3%に半壊以上の被害が発生しました。また、津波による浸水面積は約37平方キロメートルと市全体の36%、うち市街地の65%が浸水し、改めて被害の大きさに驚きを禁じえません。
被災者の暮らしの拠点、住宅再建では、集団移転事業で5地区7カ所の団地に717区画を整備して引き渡し、移転団地の区画は、30年間無償貸与として、被災者の住宅再建を側面から支援しています。
一方で、災害公営住宅は17団地で1101戸の整備を完了しています。復興住宅の使用料も国の方針を市独自に延長し、被災者に寄り添い、現行水準の維持を図る計画です。
新たなコミュニティーづくりでは、復興住宅にあっては、入居者の3〜4割が65歳以上であり、そのうち3割がひとり暮らし世帯という現実があり、思うようには進んでいません。また、旧来からの住民と震災後に移り住んだ住民とのコミュニケーションについてもさまざまな条件があり、地区役員の模索が続いています。
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東松島市の震災復興伝承館 |
一部の経営体に農地が集中する
一方で、市の基幹産業である農業に目を転じますと、沿岸部では、津波で農業機械やビニールハウスも被災し、個人経営体での農業の再建は極めて困難な状況で、組織化が進むことになりました。
市の農業法人数は震災前は10組織でしたが、現在は30組織となっています。津波で被災した農地が大区画でほ場整備され、加えて「農地中間管理機構」によって、農地が一部の経営体に集中し、経営規模拡大や農地の集積が極端に進むことになりました。2017年時点で、個人の認定農業者も含めた担い手への農地集積面積は2385ヘクタール、87・4%となっています。
大規模化による経営基盤の強化は、国の支援を受けやすい利点もありますが、一方で、組織の安定した存続のためには、これまでの個別経営体にはみられなかった企業的な経営感覚も必要とされ、米・麦・大豆のほかに露地野菜、施設作物などの生産物、加えて6次産業化などで、商品価値を高める新たな取り組みにもチャレンジしています。
地域農業は、経済活動の側面だけでなく、兼業農家、集落組織の協力・協調によって農地や水路などの地域資源の保全管理を行い、地域コミュニティーを支える重要な役割を果たしています。
地域農業をけん引する農業法人の立場からすれば、自己の経営はもとより、今後、こうした農村社会のもつ多面的な機能を維持する役割の発揮も大いに期待されるところです。
(新聞「農民」2020.3.23付)
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