「農民」記事データベース20200106-1391-01

若い後継者がふるさとにUターン

小さな牛飼い夫婦の大きな挑戦

三宅貴大さん(30)、望美さん(28)
(島根・益田市在住)


2020年 新年おめでとう

持続可能な家族農業へ
放牧で耕作放棄地を牧草地に

 山や放棄地を切り開き農地に

画像  「真っ暗な竹やぶで覆われ荒れた山や放棄された農地をきれいにしたい」。島根県益田市の山間地で牛飼いをはじめた若い夫婦がいます。三宅貴大(たかひろ)さん(30)、望実(のぞみ)さん(28)夫妻です。

 2016年に就農し、自宅(望実さんの実家)近くの谷あいにある耕作放棄地や荒れた山林を切り開き、牛の放牧をはじめました。

 「本当は酪農をしたいのですが、経営を維持する資金がどうしても必要なので当面は和牛の繁殖を中心に経営することにしています。和牛であれば生育させやすく、短期間で出荷もできます」

 現在は牧草地40アールと畑3アール、放牧地約2ヘクタールで和牛3頭、ジャージー種1頭の4頭の牛を飼育しています。

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笑顔の三宅夫妻と長女の芳果ちゃん(2)、夫妻には長男の里治くん(3カ月)もいます

 生命力あふれる牛の姿が契機に

 2人は中国四国酪農大学校(岡山県)で酪農家をめざして学ぶ中、従来型の酪農経営に違和感がわき始めました。「自分のやりたい酪農とは違うという感覚がずっとありました」と貴大さん。それが解消したのは、山間地で牛を放牧する山地酪農を実践している岩手県のなかほら(中洞)牧場での研修でした。

 「なかほら牧場では牛が生命力にあふれていました。崖を駆け下り、1メートルほどの高さをジャンプするなどの姿を見て、人間の都合で牛を閉じ込め、本来の力を奪っているのでは、と」

 育った家の周りの耕作放棄地をなんとかできないか――望実さんのねがいにも山地酪農は適していました。「昔は地域みんなが牛を飼い、エサのために畦草を刈ってきれいな田んぼが維持されていましたが、必要がなくなった今は草が伸び放題でした。牛に食べてもらえれば、土地や山をキレイに守っていけます」

 竹を切り倒した後に出てくる若竹や笹を牛が食べるので、かつて竹やぶだった山が、今では野シバが広がるきれいな放牧地になっています。

 「なかほら牧場でも山自体がきれいで、牛と山、人間の共生が非常にうまくいっている。これならば長く続けられると感じました」と貴大さん。「山に行けば人間も気分が良いし、牛も元気でいられます。一生の仕事にできると思いました」

 現代人に欠けた豊かさを大切に

 放牧で牛を飼うことで経営の可能性も広がります。「山を使ってのタケノコやキノコ栽培や林業なども放牧の合間にできます。ただ、実践には時間がかかるので、行政は目を向けてくれません。でも、次世代につなげていくためには一見地味なやり方だけど、この方が長続きすると思います」

 「それに、このスタイルには人に必要なことがすべて詰まっています。体を動かしながら頭を使い、お金はかけずに家族が一緒に過ごす。現代人に欠けているものではないでしょうか」と貴大さんは問いかけます。

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牛の世話をする貴大さん

 無理ないペース 長く続けるコツ

 就農後も順調なことばかりではありませんでした。「最初に導入した2頭は子牛を生んでくれましたが、田んぼの畦からの滑落などで2頭とも処分しなければいけませんでした。牛舎で育った牛が、放牧に対応するには困難があります」

 いま直面しているのは牧草の確保だといいます。「今の頭数が、機械を入れずに牧草の刈り取りができる限界です。しかし周りに耕作放棄地があるのに、わざわざよそから牧草を買うのもおかしいと思っています」。貴大さんは「牛が一番喜んで食べるのはうちの草なんですよ!!」と笑顔を見せます。

 「山での作業はおもしろいですよ」。荒れた山を切り開く作業について、貴大さんは話します。「大きな木は切るのも運ぶのも大変なのでなるべく残し、苦労しないペースでやることが長く続けるコツだと思います。耕作放棄地がたくさんあるので、活用したいですね」

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竹がなくなり、野シバが広がりはじめた放牧地に朝日が差し込みます

 ここで生まれた子牛を増やして

 今後について貴大さんは「お金がかかるので、牛の導入は最低限にして、できるだけ自分の所で生まれた牛で増やしていきたいです。乳搾りや加工は私の代では無理でも、次世代にはなんとか」とも話します。

 2人の子どもを育てる生活にもお金がかかるので、貴大さんは市役所に嘱託として仕事に出ています。小さな牛飼い夫婦の持続可能な農業への挑戦は始まったばかりです。


島根県農民連会長 長谷川敏郎さん

 まさに家族農業の10年を体現するような2人の取り組みだと感じています。こうした農家に見向きもしない安倍農政を一日も早く変えるために全力を尽くしたい。

(新聞「農民」2020.1.6付)
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2020年1月

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