「農民」記事データベース20191223-1390-01

世界都市農業サミット

都市農業の魅力と可能性を語り合う

日本含め6カ国代表が報告

関連/休刊のお知らせと新年号のお届け


農を生かしたまちづくりに誇り
持続可能で豊かな都市くらしを

 ニューヨーク(アメリカ)、ロンドン(イギリス)、ジャカルタ(インドネシア)、ソウル(韓国)、トロント(カナダ)の5都市の代表を招き、都市農業の魅力と可能性を発信する「世界都市農業サミット」が11月29、30日、12月1日に東京都練馬区で開かれ、分科会やシンポジウムのほか、マルシェや収穫体験なども行われ、参加者は都市農業の大切さを実感する3日間となりました。

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世界5都市と練馬区の代表が活発な討論を行いました

 各都市の取組みと実践例を交流

 12月1日に行われたシンポジウムでは、各都市の事例を報告し、都市農業が私たちのくらしと社会をいかに豊かにできるかを話し合いました。

 司会は、武蔵大学の後藤光蔵名誉教授。冒頭、後藤さんは、日本の都市農業を取り巻く状況にふれ、1968年に制定された都市計画法では、都市に農業・農地は不要とされていたものの、2015年施行の都市農業振興基本法で農地・農業が都市にあるべきものと再評価されるようになった経緯を紹介しました。

 ロンドンのサラ・ウィリアムズさんは、コミュニティー単位での食料栽培のネットワークについて報告。2012年のロンドン・オリンピック以降、地域のなかで農園や農作物栽培を支援する目的で「キャピタル・グロウス事業」が展開され、インターネットなどを活用して、農園の利用や研修のアドバイスを実施していると語りました。

 さらに、農園には、地域コミュニティーの構築、人々が自然に触れる機会の提供、食料供給の役割があること、気候変動への対応や健康改善の取り組み、地域の活性化を担っていることが語られました。

 ニューヨークのビル・ロサッソさんは、コミュニティー農園や屋上、学校、個人宅の裏庭などで都市農業が営まれ、農園や農場の多くは、収穫物の販売・寄付を通じて、十分な食料が行き届かない住民に健康的な食料を供給していることを報告しました。

 また住宅公社の農園では、地域で連携しながら若い住民たちが農園を運営し、食物栽培だけでなく、働く意義やリーダーシップを学ぶ教育的な機能も併せ持つなど、持続可能な地域づくりに貢献していると述べました。

 食料供給に貢献
 屋上農園利用へ

 トロントのロンダ・テイテル・ペーンさんは、多くの移民が暮らすトロントの都市農業が、先住民の薬草園、地域医療センターや社会福祉機関との連携など多様な機能を持ち合わせ、こうした都市農業プロジェクトが都市の再開発や能力開発、雇用促進、貧困撲滅、精神的および身体的健康の改善、環境保護に貢献していることを紹介しました。

 さらに屋上農園の有効的な活用による、地域コミュニティーの活性化、都市農業を成長させるためのプロジェクトに取り組んでいます。

 ジャカルタのタウフィック・ユリアントさんは、人口密度が高い中で、種苗農園、温室、子どもの遊び場、農に親しむ場の提供などのプロジェクトを推進し、学校での健康プログラム、集合住宅での農的活動などを実施しています。

 さらに農地の減少、気候変動と災害はジャカルタの食料供給に深刻な影響を与えているなかで、狭い面積の土地、屋上や建物の壁などさまざまな空間を利用。「農業、畜産、水産業を結んだ加工品の開発にも力を入れたい」と抱負を語りました。

 ソウルのソン・インボンさんは、都市農地が居住地の開発などによって急速に減少する一方、住民がより快適な生活環境を求めて農地の保全が徐々に進んでいることを報告。市民が農業を通じて得られる体験・教育的意義について語り、行政による一般的な支援策として、土壌改良、有機肥料の購入などへの補助を行うとともに、農家の所得補償を目的とした直接支払い事業の実施などをあげました。地方と都市の共生をめざして、人的交流や地方の農産物を購入できる店舗の運営を行っています。

 体験農園で地域と農業理解進む

 日本からは、練馬区内の農業者、白石好孝さんが報告し、練馬で代々350年間、農家を受け継ぎ、約100種類の野菜の生産・販売、農業体験農園、ブルーベリー摘み取り園の運営に携わっています。

 「市民や子どもが体験農園に参加することで、農業への理解、地域づくりへの理解の場になっている」と述べました。

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屋外では東京の農産物を使ったマルシェも行われました

 家族農業の10年
 SDGs実践を

 討論のまとめで、後藤教授は、世界の各都市が異なる条件のもと、農地の保全や新たな創出で農業生産を行い、都市の抱える貧困、飢餓、環境問題などの解決に向かって努力していることを指摘しました。

 また、家族経営が多い都市農業の実践は、新鮮で安全な農産物を供給することにとどまらず、今まで大企業が進めてきたアグリビジネス主導の食料システムを見直し、国連「家族農業の10年」に沿ったSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みに貢献することを述べ、「サミットを機に各都市の交流を強め、都市農業を発展させよう」と結びました。

 最後に、(1)都市農業はいのちを育む(2)都市農業は歴史と文化を育む(3)都市農業は、公正で開かれた社会を育む――とする「世界都市農業サミット宣言」を採択しました。

 11月30日には3つの分科会が開かれました。分科会でも報告した白石好孝さんは、「日本の場合は農民が農地を守ってきたが、他の都市は、農産物の安全性や自給、環境、コミュニティーづくりなど消費者の側からの働きかけを行政が支援しているように感じた」と発言しました。


休刊のお知らせと新年号のお届け
 次号の12月30日付は休刊にします。
 次週は2020年1月6・13日付合併号(新年号)を1週間早くお届けし、次々週とその翌週の配達はありませんのでご了承ください。
(新聞「農民」編集部)

(新聞「農民」2019.12.23付)
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2019年12月

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