「農民」記事データベース20191014-1380-04

日米貿易協定

異次元の農産物市場開放


何が「ウィン・ウィン」だ!
日本完敗 アメリカ「巨大な勝利」

 安倍首相は10月4日の所信表明演説で、日米貿易交渉の結果を「日米双方にウィン・ウィンだ」と声を張り上げました。しかし「ウィン」(勝利)はアメリカだけで、日本は完敗だったことは、日本が農産物でTPP(環太平洋連携協定)完全実施、アメリカは自動車でTPP完全拒否という結果から明らかです。だからこそ、トランプ大統領は「アメリカ農業にとって巨大な勝利だ」と叫んだのです。

 米が守られる保証はない

 茂木外務大臣は、アメリカにTPP枠として米を7万トン差し出す約束を「除外させた」と“戦果”を誇り、全中会長も「これで生産現場は安心できる」と持ち上げています。しかし、本当にそうなのか――。

 二つの点で、米が今後とも守られる保証はありません。

 第1に、日米貿易協定には「農産物についての再協議」に日本側が応じなければならないという規定があります。アメリカはこれを使って、米「除外」の見直しを求めてくる可能性がきわめて強いといわなければなりません。

 今度は米を差し出す?

 第2に、TPP等政府対策本部のスポークスマン・渋谷政策調整統括官は9月25日の記者会見で、「今後、農産品というカード(取引材料)がない中で厳しい交渉になるのではないか」との質問に対し、次のように答えています。

 「農産品カードは残っている。TPPでの農産品の関税撤廃率は品目数で82%、今回は40%以下なのだから」

 これは、米をはじめ「60%以上」の関税撤廃をしていない農産品をカードとして差し出すという宣言にほかなりません。

 選挙モードのトランプ大統領に頼み込み、同氏の地盤が産地であるトウモロコシ275万トン“爆買い”の見返りに、地盤ではないカリフォルニア米5〜7万トンを除外してもらった――これは、日米政界の常識です。

米も牛肉も
守られる保証は何もない

 牛肉関税は9%に引き下げ

 政府は、牛肉関税下げを「TPPと同水準にとどめた」と自慢しています。しかし、牛肉関税は、いきなりTPP11の水準にまで引き下げられて輸入急増を誘い、最終的には関税ゼロに等しい9%に引き下げられるのは厳然たる事実。「手柄」顔とはとんでもありません!

 さらに深刻なのはセーフガード(緊急輸入制限)発動基準数量の「二重計上」問題です(図)。TPPでは、牛肉輸入が一定数量を超えて急増した場合、関税を引き上げて輸入を抑えることができます。

 問題は発動基準数量です。図の61万トンはTPP12で定められたアメリカを含む数量ですが、安倍政権が数量の是正を要求しなかったため、アメリカが抜けても61万トンのまま。しかも、日米貿易協定でアメリカ向け数量を24万トン追加したため、二重計上状態です。政府はこの状態が3年続くと見込んでいます。

 10月1日の政府説明会では――。

 農民連「カナダなどTPP11のもとで牛肉輸出を伸ばしている国が、この状態に付け込んで駆け込み的に輸出を増やしても、抑えようがないはずだ」

 政府「抑える術はない」

 農民連「豪州の農業大臣は『再交渉は考えていない』と明言している。今さらTPP11に協議を申し出ても相手にされる保証はないではないか」

 政府「……」

 本来、輸入国を守るはずのセーフガードは、「低関税輸入枠」として、輸出国の権益を「ガード」するものに変質しているといわなければなりません。

 あやしい和牛の対米輸出増

 政府が自慢する和牛の対米輸出増は「手品」のようなものです。現在200トンの対米輸出枠をTPPでは3000〜6250トンに増やすはずでしたが、これはとりやめ。かわってアメリカが定めた「その他の国枠」に入れるというのですが、この枠は満杯状態で、TPPの枠を確保できる保証はありません。しかも、アメリカは牛肉輸入枠を1トンも増やしていないのです!
(つづく)

(新聞「農民」2019.10.14付)
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2019年10月

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