「農民」記事データベース20190930-1378-01

トランプ政権新方針
GM食品の規制撤廃

 9月25日に合意・署名と報道されている日米貿易交渉。その裏で、アメリカでとんでもない事態が進んでいます。日本のメディアは全く報道していませんが、トランプ政権は遺伝子組み換え(GM)食品に対する規制を撤廃する新方針を強行しています。


日本への圧力は必至、日米貿易交渉は中止を

 トランプ大統領は今年6月11日、「バイオ農産物規制の枠組みの現代化」という大統領令を公布しました。大統領令は、遺伝子組み換え・ゲノム編集技術が農業生産に革命的な進歩をもたらすと手放しで持ち上げたうえで、GM農産物と、それとセットで使用量が増えている除草剤グリホサートに対する「過剰な規制」を洗い出し、アメリカ国内だけでなく海外でも規制を撤廃することを、政府機関に期限を区切って命令しています(表1)。

 グリホサート禁止に向かう世界

 これを受け、環境保護庁(EPA)は8月8日、除草剤グリホサートを有効成分とするラウンドアップに「発がん性リスクがある」との警告表示を義務付けたカリフォルニア州政府の措置の中止を要求。同時に、製品に警告表示を付けて販売している企業に対し、警告表示を削除するよう指示し、それに代わる新たな表示案を90日以内に提出することを要求しました(元日経記者でジャーナリストの猪瀬聖氏のブログ、19年8月12日から)。

 グリホサートは、国際がん研究機関(IARC)が2015年7月に「ヒトに対しておそらく発がん性がある」(グループ2A)と結論づけた農薬。グリホサートが及ぼす可能性が指摘されている健康への影響は、がんのほかに「神経系・腸内細菌・DNA・生殖プロセス・ホルモン系・呼吸器系への障害、皮膚病、アレルギー、うつ病、精神的失調、老化、寿命の短縮、慢性腎臓病など多岐にわた」ります(印鑰智哉『食べもの通信』19年6月)。

 アメリカやフランスでは、グリホサートを長年使用した結果、がんを発症したとして、開発元のモンサントに損害賠償を求める訴訟が1万件以上起こされており、昨年来、原告の訴えを認めてモンサントに巨額の賠償金支払いを命じる判決が相次いでいます。カリフォルニア州は、こうした事態を受け、2017年から警告表示を義務付けてきました。

 世界的にも、EUが2022年までに農薬としての使用を禁止する決議を行い、アメリカやカナダ、アジアでも、禁止・規制の動きが広がっています。

 この流れに逆行する「グリホサート・モンサント天国」は日本で、17年12月には残留許容値を小麦で4倍、トウモロコシで6倍に大幅に緩和しました。

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世界各地で行われた「反モンサントデー」。日本でも日本法人本社前に200人が集結(5月18日)

 “農薬汚染パン”ゾロゾロ

 農民連食品分析センターは今年4月に、国産小麦・有機小麦以外の輸入小麦を使ったパンの多くからグリホサートを検出し、農水省の調査でも、アメリカ、カナダ産小麦の90%以上からグリホサートが検出されています(新聞「農民」4月22日)。

 また、野党議員有志と市民団体、農民連のプロジェクトによる調査では、国会議員28人中19人の毛髪からグリホサートが検出されています。

 GM小麦はアメリカでも認可されていませんが、アメリカ・カナダでは、収穫目前にグリホサートを散布し小麦を枯らして収穫する省力化農法が大流行していることが背景にあるのは明らかです。

 小麦の自給率は12%。日米貿易交渉では、小麦の爆買いが強要されることは確実で、トランプ新方針のもとで、“農薬汚染パン”の脅威は今後も続くといわなければなりません。

 非GM・非グリホサートに逆行する新方針

 アメリカ通商代表部(USTR)が昨年12月21日に発表した「日米FTA方針」は、食の安全について、(1)遺伝子組み換え食品の表示などについて具体的な約束を設ける、(2)米国産農産物の輸出を妨害する障害を取り除く仕組みを確立する――ことを要求しています。

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日本の遺伝子組み換え表示が危ない

 人間がGM食品を食べ始めてまだ20年。一生分食べ続けたらどうなるかについては、まだ「実験段階」です。GM作物とセットで使われる農薬グリホサートでがんを発症したとして訴えられたモンサント裁判を受け、本家本元のアメリカでも、大手流通・食品企業が非GM・減農薬商品に重点を移し出しています。だからこそ、せめて表示して選択できるようにしてほしいというのは、ささやかすぎるほどささやかな要求です(表2)。

 これに全く逆行しているのが、アメリカの日米FTA(自由貿易協定)方針と大統領令です。

 アメリカは世論と自治体の動きに押されて、やっと2023年から、遺伝子組み換え食品の「表示」というよりは、骨抜きの「情報開示」を実施しようとしています。しかし、これも新大統領令のもとでは、どうなるかわかりません。むしろ、EUや日本に対し、GMの表示義務の廃止・緩和を求めるとともに、グリホサート問題も「米国産農産物の輸出を妨害する障害を取り除く」圧力を強化するのは必至です。

 グリホサートも遺伝子組み換え食品も、さらに牛豚肉の成長ホルモンも、頑として「安全だ」と言い張り、国内外の消費者を敵視するアメリカ。「アメリカ第一主義」むき出し、食の安全などどうでもよいという圧力が強まることは必至の日米FTA交渉はやめさせなければなりません。

(新聞「農民」2019.9.30付)
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2019年9月

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