ネオニコ系農薬に
発達障害などの懸念
環境脳神経科学情報センター医学博士
木村−黒田純子さん
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世界では規制を厳しく
日本は残留基準を緩和
ミツバチの失踪ネオニコが原因
1990年初めからヨーロッパ諸国でミツバチの大量失踪が問題になり、2009年、日本でもミツバチの大量死が相次いで報告されました。多くの研究がなされ、2012年にハチの大量失踪はネオニコチノイド系農薬が主原因だとわかってきました。
EUは18年4月、ネオニコ農薬5種中3種について屋外使用を禁止し、ハチだけでなく昆虫、両生類、鳥など生態系への悪影響が確認されました。
ネオニコチノイド系農薬とは、有機リン系に代わる農薬として90年代に開発された殺虫剤で、新しいニコチンという意味です。(1)虫にはよく効くが、人には安全(2)無臭・無色で環境保全型である、などと宣伝されました。しかし、実際には次のような特徴があります。(1)水に溶けやすく、散布されたネオニコは根、葉、茎、果実に浸透し、残留すると洗っても落ちない――浸透性(2)地中に長期に残留、河川の汚染――残効性(3)神経伝達物質アセチルコリンの受容体に結合し、アセチルコリンを介した神経伝達をかく乱する――神経毒性。
現実は、生物多様性への破壊的影響をもたらし、他の殺菌剤をあわせて使うと毒性が数百倍から千倍に増幅する例もあります。人にも神経毒性があり、生体内に入ってから毒性が強くなる場合もあります。
仏・蘭全面禁止使用規制も多数
海外では厳しい規制が行われています。フランスは18年9月、すべてのネオニコ使用を中止し、オランダも14年、ネオニコの全面禁止法が議会で可決されました。ドイツ、イタリア、アメリカ、カナダ、ブラジル、韓国、台湾などでも 品目により使用規制・禁止されています。
海外では規制が厳しくなる一方、日本では、ネオニコの残留基準が緩和され、クロチアニジンがほうれん草で3ppmから40ppmへ、アセタミプリドが春菊とレタスで5ppmから10ppmへと変更されています。ネオニコの残留基準値は海外と比べても緩くなっています。
日本人は、ネオニコなど農薬や有害な環境化学物質に複合的に曝露(さらされること)しており、子どもへの影響が懸念されています。国内の3歳児の尿中に有機リン系、ピレスロイド系が100%、ネオニコ系が79・8%検出されたという報告もあります。
発達障害児の急増は遺伝要因よりは環境要因が大きいことがわかってきており、特に有機リンやネオニコなど農薬の曝露が懸念されています。マウスを使った毒性実験でも、曝露したマウスが異常行動を起こすという結果が得られています。欧州食品安全機関はネオニコに発達神経毒性の可能性を指摘し、基準値の引き下げを勧告しました。
グリホサートの発がん性も指摘
ほかにも除草剤ラウンドアップの成分グリホサートにも発がん性や急性毒性、自閉症など発達障害、生殖系への影響や妊娠期間の短縮、パーキンソン病などを引き起こすという報告がなされています。
農薬の空中散布は、農地が広いアメリカなどと違い、日本は農地の近くに人家や学校などがあり、大気中に拡散し、遠方にも運ばれて汚染を引き起こすので注意が必要です。EUでは農薬の空中散布は原則的に禁止されています。
農薬は薬でない生物を殺すもの
農薬は“薬”ではなく、何らかの生物を殺す殺生物剤で基本的に毒物です。基準値内なら安全性が確保されているとは必ずしもいえません。世界の動向は、農薬を極力減らし、持続可能な生態系を維持した農業に向かっています。無農薬、有機農業でなくとも、危険性の高い農薬は使用を中止し、もしくはできるだけ量を減らしていただきたいと思います。
農業の重要性を消費者も政治家も理解し、農業従事者の方々と共存できる社会を目指していきたいと思います。
講演を聞いて
正しい方向は何か、明快な話聞けた
兵庫県農民連産直センター 辻本悦子さん
農業に携わる人は高齢者が多くなり、農作業が大変になってきています。消費者からは、農薬を減らして見た目のきれいな農産物を要求されています。
農家は米検査で斑点米により、等級が下げられ、なおかつ消費者からも黒い米が混ざっているなどの苦情があったりします。
ネオニコ系農薬をめぐる諸外国の動きは規制・使用禁止であるのに、日本では、基準緩和が進んでいるということだけでもおかしな話です。
子どもたちの健康、がんやパーキンソン病の急増、ミツバチの激減など至るところで待ったなしの現象がでています。
雑草対策、虫をどうして退治していくかなど、大変な問題になっているなか、農薬、除草剤について、どうしていくのが正しい方向なのか、明快なお話を聞くことができました。
子の健康考えるうえで避けて通れぬ
栃木産直センター 野村和史さん
農薬の問題は学校給食の問題とも無関係ではないと思います。
栃木県教職員協議会のアンケートによれば、子どもに配慮すべき問題として「アレルギー等」が4番目にランクされています。それだけ食べもので配慮を要する子どもたちが増えているということです。
各学校に配置されている管理栄養士も長時間労働を押しつけられるなど、子どもの健康へのケアが不十分なことを示しています。
今後、子どもの健康を考えていくためにも、ネオニコチノイド、グリホサート、グルホシネートなど農薬問題は避けて通れないことを改めて痛感しました。
短時間の講演で、もっと聞きたかったです。今後、木村先生を招いた学習会などを計画したいと思います。
次週号(8月19日付)は休刊にします。新聞「農民」編集部
(新聞「農民」2019.8.12付)
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