「農民」記事データベース20190729-1370-03

秋から販売開始

国は「表示は不要」の方針

農民連常任委員 齋藤敏之


ゲノム編集食品
意見交換会に参加して

 7月4日に都内で、厚生労働省と農林水産省、消費者庁が共催した「ゲノム編集技術を利用して得られた食品等に関する意見交換会」が開かれ、秋からこの技術で作られた食品等の販売を前に、説明が行われました。

 届け出のみで可
 安全審査は不要

 厚労省は、3月に発表した「報告書」で「もともとあった遺伝子を取り除くだけ」のものは、開発者の「届け出」だけで、遺伝子組み換え食品に課せられている「安全審査」なしで販売可能としました。

 そのうえで、「消費者が不安を持っていることを前提に、わかりやすく情報を伝える配慮が必要」であり、「検知法を含め、さらなる技術開発の進展等が見込まれること、また、想定されなかった食品衛生上の問題が生じる可能性がないとは言えない」ことなどから「国内外の安全性に関する新たな科学的知見が得られた場合には、必要に応じて取り扱いの見直しを検討する」と歯切れの悪い説明でした。

 農水省は「ゲノム編集で得られたものの生物多様性に関する環境省からの取り扱い方針に対する農水省の対応方針」について、厚労省が「届け出だけでよい」としたものは、「カルタヘナ法の対象外とし、必要な情報提供を行う」こととしたと説明しました。

 欧州司法の判決
 GM食品と同等

 消費者庁は、「食品の表示は、消費者の食品選択に重要な役割を果たしている」としつつ「痕跡が残らないものに表示を付ける事自体、追跡ができない以上意味がない」と、「表示せよ」という多くの意見を切り捨てました。

 国際的には「現時点では、ゲノム編集技術応用食品の表示について、具体的なルールを定めて運用している国・地域はない」、欧州司法裁判所の「遺伝子組み換え食品と同等に扱う」との判断に対して「欧州委員会がどのような対応をするかについては、現時点で明らかでない」と述べ、その判断を無視しました。

 さらに、「現在流通実態がないため、その表示のあり方について、実際の流通状況を見つつ、適宜制度の運用状況を検証し、必要に応じて見直しを検討するという視点が必要」と、「表示はしない」ことを前提とした説明をしました。

 募集意見の大半
 安全審査実施を

 厚労省が「報告書」をまとめる前に行った意見募集に集まった700通の大半の意見は「長期的な検証をしてから導入すべきだ」「自然界で起こる突然変異と同じとは思えない」など安全性を懸念するものと「検査できないことが、表示を免除する理由にはならない」「安全性審査が行われない場合は、なおさら表示が必要だ」など、安全性への疑問と表示を求めるものです。

 さらに、ゲノム編集技術でマッチョな(筋肉が異常に発達した)マダイを開発した近畿大学の家戸啓太郎教授も、5月29日の日経電子版のインタビューで「消費者には遺伝子組み換えとゲノム編集を混同しているケースが多い。まず正しい認識を持ってもらうための情報公開と説明を地道にしていくことが重要だ。表示ルールも決めるべきだ。この食品はゲノム編集していますということをきちんと消費者に分かる形で示していくことも大事だ」と言います。

 拙速に許可せず
 表示して販売を

 ところが政府は、こうした消費者や開発者の意見をまったく無視して「特定の遺伝子を切り取って作られたもの」は、安全審査も表示もせず流通させようとしています。

 厚労省自身が「国内外の安全性に関する新たな科学的知見が得られた場合には、必要に応じて取り扱いの見直しを検討する」と、将来の安全性に不安を持っているのであれば、「知らないうちに食べていて、後から安全性に対する問題が発覚したなどの事態が生じれば、ゲノム編集技術の不信感は増大する」などの意見があります。

 こうした意見に応え、ゲノム編集技術応用食品の流通は、拙速に許可せず、従来の育種で行われていた遺伝特性の固定や安全性を確認してから、表示して販売すべきです。

(新聞「農民」2019.7.29付)
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2019年7月

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