「農民」記事データベース20190722-1369-02

経済学者・金子勝さんに聞く

安倍「官邸」農政に審判を!

日米FTA、大規模化農業に異議

 参議院選挙も最終盤。安倍農政を許すのかどうかが問われています。新自由主義、大規模・効率化を推し進める安倍「官邸」農政に異議を唱える経済学者の金子勝さんに聞きました。


 プロフィル 金子勝(かねこ・まさる)
 1952年、東京都生まれ。経済学者。慶應義塾大学名誉教授、立教大学特任教授。近著『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)など


参院選・野党統一に期待

画像  かつてアメリカは建前上「自由貿易体制を守る」という姿勢をとり、同盟国などと協調政策を行っていました。しかし、いまはアメリカ自身が「自由貿易」の旗を降ろし、公然と中国や先進諸国に対して「制裁関税」で脅すというやり方に変わっています。よりむき出しの自己利益を相手に押しつけるという形になっています。

 日米FTA(自由貿易協定)交渉はまさにその流れのなかにあり、より強い国(アメリカ)が弱い国(日本)に関税引き下げを迫り、自分のところは保護関税で守るという構図です。

 トランプ大統領と安倍首相との関係は、とても“外交”といえるような代物ではありません。トランプ氏が「日本との貿易交渉で素晴らしい進展があった。農業と牛肉で特に大きい」とツイートし、安倍氏の選挙事情を考慮して、「8月に両国にとって素晴らしいことが発表されると思う」と参議院選挙直後の合意をにおわせる発言をしています。

 本来ならば、きちんと国会で予算委員会を開いて、よく議論し、交渉に臨むのがスジですが、予算委員会も開かず、国民に一切の説明もしていないのは大問題です。

 過度な自由貿易 日本農業に打撃

 2012年12月の総選挙で自民党は、「TPP(環太平洋連携協定)交渉参加は断固反対。ウソつかない」と公約したにもかかわらず、TPP交渉に入りました。その後、「重要5品目は守る」とした国会決議をかなぐり捨て、重要5品目の関税引き下げ・撤廃を強行しました。

 米でいうと、いま政府は、飼料米に補助金をだしていますが、TPP11、日欧EPA(経済連携協定)により、豚肉・牛肉の大幅な関税引き下げが行われ、大量の外国産豚肉・牛肉が輸入されるので飼料米の売り先がなくなってしまい、対策は成り立たなくなります。

 TPP11と日欧EPAで日本の畜産と酪農は大打撃を受けます。今年に入り、牛・豚肉の輸入が増え、ワイン、チーズなども増えています。今後の関税引き下げ・撤廃などで輸入が急増し、そこに日米FTAということになれば、日本の農業は壊滅状態になります。

 さらに輸入農産物の増加で問題になるのは、食の安全です。輸入の際の基準が緩められ、ポストハーベスト、遺伝子組み換え農産物の輸入に歯止めがきかなくなります。

 官邸主導で推進 大規模化ドグマ

 いまの日本は国家の体をなしていないと思います。農水省に限ったことではありませんが、省庁の力が落ち、官邸に権限が集中する。農協改革をはじめ、国有林野法、漁業法、水道法の改定などはみな規制改革推進会議の意向を受けて官邸主導で行われました。肝心な現場の声を聞いて対策をたてるということになっていないのです。まさに危機的な状況です。

 農業の分野でも、規制改革推進会議をはじめとした官邸主導の政策決定で一貫しているのは、規制緩和をして市場機能を強め、大規模・効率化して生産性を上げればすべてうまくいく、というドグマ(教条)にとらわれていることです。

 TPP11や日欧EPAの発効で、牛肉、豚肉、チーズなどの輸入が大量に増えていますが、政府がたてる対策は、大規模化のための補助です。農地面積は減り、耕作放棄地も増えていますが、1戸あたりの規模は拡大しています。酪農・畜産も飼養農家数は減り、飼養頭数も減っていますが、1農家当たりの頭数は増えています。つまり、小規模な農家をどんどん淘汰(とうた)して1戸当たりは規模拡大していても、産業としての農業自体は衰退してしまうということです。

 規模拡大のための補助金を受けた大規模経営だけが生き残ったとしても、規模では海外とは比べ物にならず、対等な競争はできません。結局、今の政策では日本の農業は守れないのです。

 規模拡大だけでなく、兼業の機会を増やしたり、6次産業化のような取り組みを支援したりするなどで農家の生活を成り立たせるのが本来のやるべき改革です。アメリカやEUでは当たり前の所得補償が必要です。食と農、福祉、エネルギーといった人間の基本的ニーズに関わることは地域分散型でやっていくという地域分散型ネットワーク社会があるべき姿です。

 環境や安全を大事にすることを考えたら、小規模農家の方がずっと優位です。ヨーロッパをはじめ世界の流れはそうなっています。大規模化・効率化一辺倒の新自由主義に対抗する農家経営モデルを示していくことが大事です。その点で、国連の「家族農業の10年」には注目しています。

 安倍農政にノー 野党の勝利で

 参議院選挙では、全国32の1人区で野党統一が実りました。農業分野でもTPP、日米FTA反対、戸別所得補償の復活など農業、農村のための政策を発信してほしいと思います。農業問題に通じた国会議員が減っているなか、官邸いいなりの与党候補者でなく、たとえ自民党支持者でも今回は安倍農政ノーの意思表示をしてほしい。野党の候補者は安倍農政ノーの政策で満足することなくあるべき農業・農村の姿を大いに語ってほしいと思います。

(新聞「農民」2019.7.22付)
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2019年7月

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