「農民」記事データベース20190715-1368-01

参院選
官邸主導の農協「改革」・
日米FTAにノー!

JA高知中央会 元会長
伊藤 喜男さんに聞く


 プロフィル 伊藤喜男(いとう・よしお) 1937年生まれ、85歳。高知県連合青年団長、小川農協設立発起人代表、小川農協専務、吾北村農協組合長、JA高知中央会長、農協五連(信連、共済連、経済連、厚生連、中央会)会長、県園芸連理事、JAコスモス組合長などを歴任。


大規模・効率化推進の安倍農政に審判を

画像  参議院選挙(7月21日投開票)は、安倍「官邸」農政の是非が大きく問われています。JA高知中央会の伊藤喜男・元会長は、安倍内閣の農協「改革」、日米FTA(自由貿易協定)に異議を唱えています。伊藤元会長に聞きました。

 総合農協解体は地域農業を壊す

 安倍総理で一番いかんのは、戦後の歴代首相のなかで農協攻撃をした初めての内閣だという点です。それは、農協利用者のうち農業に携わっていない准組合員の農協利用(信用・共済など)を制限しようとしていること、さらに農協の総合事業を壊そうとしていることです。

 このことで、農協が何か問題を起こしたわけでもないし、人に迷惑をかけてきたわけでもありません。准組合員に農協を利用してもらうことで総合農協として成り立ってきました。さらに農協が総合農協であることで、地域や農民のために役立ってきたのです。

 中山間地でみんなに利用してもらうことで農協が経営するAコープなどが成り立ってきた。私が組合長のとき、私より10歳以上年配の女性から「組合長さん、ありがとうございます。近くに歩いて行けるAコープのおかげで私は生きておられる」と感謝されました。小さな集落ですが、店などもどんどん減り、最後はAコープだけになってしまった。ガソリンスタンドもそこに1カ所だけになってしまいました。Aコープのおかげで地域が成り立ち、そこに住む人の生活も成り立っていたのです。

 なぜ総合農協を解体したいのか、理解できません。確かにわれわれはJAグループとして、情勢にあわせて改革はしなければなりません。しかし、それは組合員と一緒に進めていくべきもので、安倍内閣のやっているような規制改革推進会議に言われてやるようなものではありません。

 農協の役職員は、農家のみなさんの仕事を代わりにやるプロです。10年ほど前に、組合員の利用状況が減っているなか、その対策のため職員のなかで改革チームをつくって検討させました。そこで出てきたスローガンが「『ありたい姿』実現のための農協改革」でした。「あるべき姿」では押しつけになってしまう。「ありたい姿」とすることで、みんなで自由に考え夢を語り合っていいアイデアがでてくる。「これはいい発想や」と誉めて取り組みを進めました。

 地域・集落みんなで議論して、組合員の立場から「ありたい姿」を考え、その実現をめざす、これが組合員のための改革であり、協同組合の本来の姿です。

 中山間地支える家族農業振興を

 政府がTPP(環太平洋連携協定)交渉入りしたとき、県内の組合長が国会議員に「(重要5品目を守るとした)国会決議を守れ」と要請に行きました。しかし、国会議員にもほとんど情報が知らされていないことがわかりました。協定締結後、農水省は慌てて、TPPの影響試算を始めた。本来であれば、影響を先に出して、それを踏まえて交渉に臨むべきでしょう。こんな無責任な交渉はありません。国会議員も農水省も蚊帳の外だったのです。いまの日米貿易交渉でも同じことが起こっているように思います。官邸主導で進める安倍政権の姿そのものです。

 もし日米FTA締結ということになれば、高知の農業に大きな影響が出るのは間違いありません。とくに畜産が打撃を受けます。いま高知の中山間地では、「土佐あかうし」を開発し、ブランド化に力を入れています。しかし、FTAでその努力が台無しになってしまうことを危惧しています。

 今の農政の問題は、効率化と規模拡大を中心とした農業になっていることです。そんな農業は高知県では通用しません。国連が「家族農業の10年」を提起したのは大事なことだと思います。高知では昔から「農畜林」といって、それぞれが影響しあって、循環型の農業を進めてきました。高知で多い半農半漁や定年後就農など、土地や条件にあわせて農業に携わっていく家族農業こそ農業のあり方そのものです。

 日本農業新聞の調査では、96%の農協組合長が「安倍官邸農政を評価しない」と答えていますが、これだけ農協を痛めつけておいて、その結果は当然でしょう。参議院選挙では、安倍総理のこうしたやり方に「ノー」を突きつけたいものです。

(新聞「農民」2019.7.15付)
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2019年7月

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