家族農業は飢餓・栄養不良を
克服するカギ
家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン設立総会でのFAO(国連食糧農業機関)駐日連絡事務所のチャールズ・ボリコ所長の特別講演(要旨)を紹介します。
皆さん、こんにちは。国連「家族農業の10年」がなぜ大切かということをお話しする前に、まず世界の食料安全保障の現状について話したいと思います。
いま世界では全ての人に十分な食料が生産されているでしょうか? じつは食料は十分にあり、その8割は家族農業から生産されています。しかしなんと8億2100万人、9人に1人が食料を十分に手に入れることができていません。この栄養不足人口の3分の2はアジア人ですが、割合から見ればアフリカでは4人に1人、とくにアフリカ大陸東部では3人に1人が栄養不足状態です。
なぜ食べ物がそんなに大切なのでしょうか。まず世界の乳幼児死亡の45パーセントは病気ではなく、栄養不良に関連しています。この45パーセントの子どもたちは栄養豊富な食料が与えられるだけで死なないですむのです。また飢餓による死者の数は、マラリア、結核、エイズの死者の合計を上回ります。さらに栄養不良による世界経済の損失は、毎年3兆5000億ドルにも上ると推定されています。
栄養不良の原因は何でしょうか。一つは気候変動です。そしてその最も深刻な打撃を受けるのは家族農業です。紛争もあります。国連安全保障理事会は昨年初めて、紛争と飢餓の関連性を認めた決議を全会一致で採択しました。また食料を輸入に依存する国々は、経済停滞があると輸入できなくなり、低収入の家族への影響が大きくなります。
家族農業の役割 大切さアピール
国連「家族農業の10年」は、2017年12月の第72回国連総会で採択されました。その目的は地球上の食料の80パーセントを生産する家族農業がいかに大切なものかをアピールすることです。
SDGs(持続可能な開発目標)、とくに食料安全保障の確保に大きな役割を果たす家族農業に焦点を当てる、ということも重要です。家族農業は飢餓・栄養不良とたたかう世界的な取り組みのカギとなるもので、家族農業なしで食料安全保障を確保することはできません。生計手段である農業を守り、雇用を創出し、資源管理や生物多様性にも貢献しています。
FAOは「家族農業の10年」を通して、家族農業者の立場を強め、世界の食料安全保障に貢献する環境づくりを行っていきたいと考えています。そして各国が家族農業にかかる施策を進め、他国での経験や好事例を共有できるよう後押しすることも重要です。
5月に新潟市で開催されたG20(20カ国・地域首脳会議)農業大臣会合の閣僚宣言でも「家族農家、小規模農家、女性や若者を含む関係者にイノベーションと知識を最大限に活用できるよう、支援することが重要」と言及されています。
5月29日にイタリアのローマで行われた「家族農業の10年」開始の記念式典では「グローバル・アクション・プラン」が発表されました。このアクションプランには7つの柱があり、(1)政策環境、(2)若者、(3)ジェンダー、(4)能力開発、(5)農業者の包含性と幸福、(6)気候変動の影響からの回復力、(7)社会的なイノベーション(革新的対応策)に重点を置くとなっています。
私たちFAO駐日連絡事務所も、「家族農業の10年」を応援していきたいと思っています。
(新聞「農民」2019.7.1付)
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