「農民」記事データベース20190617-1364-01

外米に踏みつけられる日本の稲作

日米FTAで大幅譲歩の「密約」


参議院選挙で怒りの審判を

 「TPPは関係 ない」トランプ発言を黙認

 トランプ大統領との日米首脳会談で安倍首相は、「参議院選挙が終わるまで公表しない」ことを条件に農産物で大幅譲歩を「密約」しました。トランプ氏は「TPP(環太平洋連携協定)にはしばられない」「すべての障壁の撤廃が目標だ」「8月によい発表ができるだろう」などと明言し、安倍首相はこの発言を黙認しました。

 「TPP水準が上限」とする政府の方針はトランプ発言でいっぺんに吹き飛んでしまいました。

 今後の交渉次第では、日本の農業、とりわけ主食の米が脅威にさらされることになります。安倍首相は選挙の前に真相を明らかにすべきです。

 TPP水準なら米は守れるのか

 たとえ「TPP水準」でも、国産の米への影響は重大です。WTО(世界貿易機関)のもとで、日本は「義務」と称してMA(ミニマムアクセス)米を年間77万トンも輸入し、このうち10万トンを主に主食用にSBS(売買同時入札)方式で輸入しています。主食以外の輸入米は加工用や飼料用などに振り向けています。

 日本はTPP交渉の際に、WTОのMA米とは別枠で、主食用にアメリカ産を当初3年間は年間5万トン(同様にオーストラリア〈豪州〉産を6千トン)、以後順次増やして13年後は7万トン(豪州産は8400トン)輸入することで合意していました。TPP11の発効で、すでに実施している豪州産同様、SBS方式で輸入し、3年間で2年計画未達の時は、関税相当のマークアップ(輸入差益)を引き下げる、など何がなんでも主食用として輸入する――これが政府のいう「TPP水準」です。

 MA米に加えて別枠輸入のオーストラリア産、アメリカ産を加えれば、実に年間85万トンもの輸入米になります。これは日本の米生産量トップの新潟県や北海道をはるかに上回り(図1)、しかもそのうち18万トンはあくまでも主食用として輸入することになるのです。

 輸入米のために国産米を減らせ

 いま国内では、わずかな需給のゆるみでも“米価が大幅下落”の恐れがあるとして、全国の産地が主食用米を減らして飼料用米や備蓄米等へと、懸命な努力をしている最中です。

 しかし仮に2019年産備蓄米(20・9万トン)が全量落札したとしても、過剰感は払しょくできず、さらに主食米作付けを減らせと農水省は締め付けを強化しています。

 政府は輸入米に見合う数量の国産米を備蓄米として買い入れ、「主食用米の需給と価格への影響を遮断する」としていますが、消費量が毎年10万トン減少していく現状でこの手法を続ければ、輸入米のシェアを増やすため、国産米の供給を減らすということにしかなりません(図2)。

 苦労して米を作り続ける農民、安全・安心な国産米を販売したい米屋さんやそれを求める消費者を、これほどバカにした話はありません。「TTP水準」であっても許されるものではありません。

 関税を撤廃すれば国産米10%に

 ところが、トランプ氏の要求は「TPP水準」ではありません。

 TPP離脱後のトランプ政権に対してアメリカの米業界団体は対日輸出数量15万トンを要求しています。

 アメリカ特別枠分を15万トン上乗せし、さらに消費減少分10万トンを国産米だけで減らすという愚策を続けさせるわけにはいきません。

 さらに関税撤廃という事態になれば日本の米はどうなるのでしょうか。2009年、政府は「関税がゼロになれば残れる国産米は有機米や一部のこだわり米など10%程度」となり、壊滅的な打撃を受けるとしていました。

 日本の米の生産費は1俵(60キロ)1万5100円(17年全国平均)。一方アメリカ産米は1俵2200円(農水省調査)。

 関税がゼロになれば、1キロ70〜90円の米がどっと押し寄せ、中・外食、加工米飯などに使用され、知らないうちに大量の外国産米が消費されることになり、水田は荒れ果て、環境を維持する力も失われていくことになります。

 何をやるかわからないトランプ流に“輸出ストップ”などの脅しを受ければ、外交や軍事に加えて、国民の胃袋も完全にアメリカ言いなりになりかねません。

 市民と野党の共闘の勝利で農政の転換を

 第2次安倍政権の発足と同時に米価が大暴落しました。苦しむ農民を尻目に、安倍農政は規模拡大と競争力強化をうたい、農協法の改悪や戸別所得補償制度の廃止など、農業つぶしの農政を進めてきました。しかし世界は大規模、効率化一辺倒の農業から、家族農業を中心に持続的な農業へと、大きく流れが変わり始めています。

 今年は国連の「家族農業10年」のスタートの年です。安倍内閣の農政では世界の流れに逆行し、日本の農業も食糧も守れません。

 参議院選挙で政権与党にきびしい審判が求められます。すべての一人区で実現した市民と野党の統一候補を勝利させ、「日米FTA(自由貿易協定)」ストップ、戸別所得補償制度の復活など、安心して米を作り続け、食べ続けられる農政への転換を実現しましょう。

(新聞「農民」2019.6.17付)
ライン

2019年6月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2019, 農民運動全国連合会