発生地と隣接 5県の養豚農家が緊急会合
“ワクチン接種早期に“と決議
豚コレラ 発生から9カ月
「養豚の危機だ」「現場はもう限界」
飼養管理だけでは防げない
岐阜県で昨年9月に豚コレラの感染が確認されてから9カ月がたちましたが、5月25日にも24例目の感染が確認されるなど、岐阜県、愛知県を中心として、いまだに収束が見通せない現状が続いています。
そんななかで5月17日、岐阜、愛知、静岡、三重、長野の5県の養豚農家らが名古屋市で緊急の検討会議を開催し、国に対し、地域限定での早期のワクチン接種や殺処分となった農家の再建への支援を求めることを決議しました。
今の補償では再建できない
この緊急会議は、静岡県養豚協会が各県に呼びかけて実現したもので、約100人が参加。決議には岐阜、静岡、三重、長野の各県の養豚協会会長も名を連ねました。
静岡県養豚協会の中島克己会長は開会あいさつで、豚コレラ発生後、この日までに岐阜県では35パーセント、愛知県では14パーセントもの豚が殺処分されたことを紹介。「感染ルートの解明もできておらず、静岡県内での発生も時間の問題。自分自身も発生の恐怖とたたかう毎日だ。養豚農家として、まん延を止めたい、仲間を助けたいという思いは皆同じ。県を超えて連携していこう」と呼びかけました。
愛知県の養豚農家は、「国にワクチン接種を求める署名を、6割強にのぼる養豚農家から集めた。収束の見通しがたたない現状では、再開もできない。まずワクチン接種を実施して、同時に感染源になっている野生イノシシの対策をとってほしい。今の農水省の対策にはどうにも納得できない」と、強い怒りを表明。
また愛知県の別の生産者も「補償額が実際の損害よりも少ない上に、再建までの補償や生活支援もない。運送業など関連産業への補償もまったくない」と発言しました。
岐阜県の吉野毅会長は、飼養管理基準の徹底に限界まで取り組んでいる養豚農家の苦悩と疲労を報告。先月、農水省が、感染リスクの高い地域の養豚場に早期出荷をさせることで一旦豚舎を空にし、まん延を防止するという方針を示していることについて、「こんなことは絶対に許されない。野生イノシシに感染が広がっているなかで、たとえいったん豚舎を空にしても再発は避けられない」と述べ、農水省の対応を厳しく批判しました。
輸出量はわずか“清浄国”返上を
ワクチン接種を求める声は、獣医からも相次ぎました。現地の養豚場の飼養衛生管理について講演に立った日本養豚開業獣医師会(JASV)の呉克昌会長は、JASVとしても「地域・期間を限定したワクチン使用を検討すべき」と、3月と4月の2回にわたって国に要望していることを明らかにしました。
また岐阜県の石黒利治獣医師も、「野生イノシシに感染が広がった時点で養豚場はウイルスに囲まれることになったわけで、葉っぱ1枚の侵入で感染する可能性がある。もはや飼養管理や設備投資で防ぎきれるものではなく、ワクチン接種を行うべきだ」と発言し、満場の拍手がわきました。
しかし農水省の担当者は、従来の対策の説明に終始するのみで、ワクチン接種を求める声にも、「家畜伝染病予防法で平常時の予防的なワクチン接種は行わないとなっている。清浄国でなくなれば輸出にも影響が出る」と、慎重な姿勢を崩しませんでした。
講演した養豚情報メディア編集者の岩田寛史さんは、豚肉の輸出入の実態を紹介し、「日本は圧倒的な輸入国で輸出はごくわずか。ワクチン接種によって輸出できなくなる不利益と、日本の養豚全体に豚コレラが広がる危険性とを、よく考えなければならない」と話しました。
豚コレラとは
豚コレラウイルスによる豚、イノシシの伝染病で、強い伝染力と高い致死率が特徴。治療法はなく、影響が甚大なことから、家畜伝染病予防法の中で家畜伝染病に指定されている。ワクチン接種で感染は止められるが、国際的には「清浄国」扱いでなくなるため、豚肉の輸出が難しくなる。人には感染せず、豚コレラにかかった豚の肉や内臓を食べても人の健康に影響はない。
(新聞「農民」2019.6.3付)
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