「農民」記事データベース20190429-1358-02

日米貿易協議は
ただちに中止を


日米FTA交渉スタート
亡国の譲歩への第一歩

 4月15〜16日、茂木経済再生担当相とライトハイザー米通商代表が閣僚級貿易交渉を行い、ついに日米FTA(自由貿易協定)交渉がスタートしました。

 交渉は矢継ぎ早です。茂木氏が1週間後に再び訪米して2回目の交渉を行うほか、安倍首相が4月26〜27日にワシントンでトランプ大統領との首脳会談とゴルフ外交、麻生財務相も同行して“為替条項交渉”を行い、菅官房長官が連休明け訪米を計画するなど、アメリカ詣(もう)でを連発。まるで、改元祝賀ムードと10連休のドサクサまぎれです。

 さらに、5月、6月にはトランプ大統領が新天皇との面会と主要20カ国・地域(G20)首脳会議出席のために来日して、4月から連続の“月例首脳会談”を行います。

 米大使「大統領は貿易を最優先」

 茂木氏は「良いスタートを切ることができた」と笑顔を見せたといい、「当面の協議を農産物や自動車などの物品関税に絞る“日本ペース”に持ち込めたとの認識をにじませ、政府内には安堵(あんど)感も漂う」と報道されていますが、冗談ではありません。

 ハガティ駐日米大使は17日、日本経済新聞の取材に対し「米国の農業生産者がTPP(環太平洋連携協定)11や日欧EPA(経済連携協定)によって痛手を受けるのは認められない」「日米首脳会談では、貿易がトランプ大統領の最優先事項だ」と公言しました。

 トランプ大統領は、TPP離脱や米中貿易戦争によってアメリカの農産物輸出が大きく落ち込み、支持基盤である農業関連業界の焦りと反発が強まっているという「農業分野での政治的負債」に直面しています。これを手っとり早く解消するため、最も御しやすい安倍政権に対し、当面、農畜産物の関税引き下げ圧力を集中する狙いです。

 農産物を差し出し、自動車を救う?

 日米FTAを「物品貿易協定」(TAG)だと言い張って、物品関税に絞って迅速な決着をめざす“日本ペース”は、トランプ大統領の手のひらの上で踊る孫悟空のようなものにすぎません。

 EU(欧州連合)は「農産物除外」を断固として主張し、昨年7月に合意した米・EU貿易交渉は、いまだにスタートの目途が立っていません。

 EUとは対照的に、安倍政権は農産物を犠牲にして、自動車を含む工業製品に対するトランプ政権の保護主義的な要求から逃れようとしている――亡国ぶりは際立っているといわなければなりません。

 “TPP並みだから大丈夫”の大ウソ

 “過去の貿易協定(TPP11・日欧EPA)の水準までは譲歩するが、それ以上は譲らないことをトランプ大統領も了解しているから安心してほしい”――これが、安倍政権の言い訳です。しかし、そのデタラメぶりは二重三重に明らかです。

 第1に、TPP11・日欧EPAが発効した1〜2月の牛肉、豚肉、チーズやワインの輸入が激増しており、牛肉・豚肉ともに国内生産1カ月分をはるかに上回っています。

 第2に、TPP離脱前にアメリカ国際貿易委員会が大統領に提出した報告書(16年5月)は、TPPが動き出せば日本への農産物輸出が4000億円増えると試算していました(表)。すでに輸入が激増している上に、アメリカ産農産物に対する関税引き下げが加わったらどうなるかは、火を見るよりも明らかです。

 第3に、朝日新聞が「交渉の最大のリスクは、再選を至上目的とするトランプ大統領だ」と書くように、ちゃぶ台返しの常習犯、「トランプ大統領の了解」ほどアテにならないものはありません。

 どこから見ても“TPP11・日欧EPAの水準だから大丈夫”などという言い訳は、安倍首相一流のウソとデマカセにすぎません。

 「アメリカ第一」とTPPの最悪の結合

 しかも農産物は「一の矢」であり、これに二の矢、三の矢が続きます。トランプ政権の日米FTAの報告書は、物品に続いて食の安全、医療、為替管理を含む経済主権の侵害、さらに自動車の輸出数量規制とアメリカでの現地生産の拡大にまで踏み込むことを明記しています。

 ハガティ駐日大使は「米国で消費する自動車は米国で生産すべきだ」「大統領は米国内でさらに多くの自動車生産と雇用創出を望んでいる」とも述べましたが、これは自動車の対米輸出中止・米国生産がゴールであるという宣言です。

 トランプ大統領は、日本に軍事費負担の増大と兵器の購入拡大を要求するとともに、貿易赤字解消を強要し、「アメリカ第一主義」とTPPの最悪の結合である日米FTAによって日本の経済力をしゃぶり尽くすことを狙っています。

 亡国の日米貿易協議はただちに中止すべきです。

(新聞「農民」2019.4.29付)
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2019年4月

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