「農民」記事データベース20190422-1357-05

不安定感増す米情勢

TPP別枠輸入開始
豪州産を主食に、国産は備蓄に

追い打ちかける輸入米


逆立ち安倍農政に審判を

 昨年産米は作況指数98(やや不良)にもかかわらず過剰在庫が懸念されています。4年続きの米価値上げで需要が後退しているとされ、業者は先々の米価下落を懸念して、手持ちを極力減らす動きを強めています。

 表向きの価格は現状維持が続いていますが、新潟コシヒカリ等の一部の銘柄を除いては、市場の取引価格は下落傾向で、この秋の米価へつながるおそれが強まっています。

 さらに新たに始まる豪州産の別枠輸入の影響も懸念され、農水省も手をこまねいていられない事態になっています。

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極早生(わせ)の「よさこい美人」の田植えが始まっています=3月31日、高知県南国市(撮影=高知県農民連・中越吉正事務局長)

 備蓄米集めに躍起の農水省

 農水省は今年産の主食用米を減らすため、輸出米や飼料用米の拡大を念頭に、産地交付金で新たに「転換作物拡大加算」など最大3万5千円(10アール)の対策を示す一方、備蓄米への誘導に躍起になっています。

 今年産の備蓄米はTPP(環太平洋連携協定)11の発効で新たに豪州産米の別枠輸入相当分を加えて20万9千トンの計画で、この間、4回の入札で14万6千トン余(70%)が落札しました。しかし、主要産地はほぼ出尽くして、計画通りの買い入れは難しいとみられています。

 買入価格(非公表)は昨年比+850円の1万3850円(税別)程度で大方の予想(1万3200円程度)を大きく超えていました。

 また、備蓄米の農家の手取りがいくらになるか、金額で示して「主食用米より有利」とするキャンペーンを展開し、入札予定価格を事実上公にする異例の対応をとっています。

 さらに、備蓄米入札には生産者ごとの計画が必要でしたが、途中からこれを「不要」に変更。団体、業者問わず「とにかく備蓄米へ」というものです。

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農水省による備蓄米作付け促進を伝える新聞報道

 豪州産米に続き米国産の圧力が

 2018年度のSBS(売買同時入札)米入札は10万トンの計画に対し59%の落札で終了しました(前年度は全量落札)。国産米の需給緩和と米価の下落を警戒して、業者は輸入米を敬遠しているためです。18年産の不作で網下米(中米)が低価格で大量に出回る事情もあります。

 こうした中で、TPP11による豪州産米の別枠輸入が始まりました。当面年間6000トンで開始し、(1)年6回の入札(2)不落札のときは翌日に見積もり合わせ(3)3年度中2年度で数量が未達成のときは、マークアップ(関税に相当)を15%引き下げるなど、確実に主食用として輸入する仕組みです。

 しかも、豪州産の輸入計画量に見合う国産米の備蓄を増やして、主食用への供給を減らすという、どこまでも外国産優先の米政策です。

 今年度は3月まで2000トンの枠で1120トンが落札しましたが、短粒種玄米の輸入価格は1俵(60キロ)換算で6060円、業者への売り渡し価格は1俵9660円でした。いずれ国産米への影響は避けられません。さらに日米FTA(自由貿易協定)交渉が始まれば、TPP交渉で受け入れた7万トンの増枠(15万トンとも言われている)を要求されるのは必至です。

 多収穫米を奨励 場当たり的政策

 農水省は、外食事業者などの要求で“多収穫米や安いBランク米作れ”のキャンペーンを展開してきましたが、備蓄米に回るのはこうした米がほとんどです。

 また、農水省は複数年契約や播(は)種前契約などの事前契約の取り組みを奨励。産地によっては70%台まで事前契約を積み上げています。いまさら「備蓄に回せ」と言われても対応の仕様がないのが実情です。

 場当たり的な米政策に「安心して米が『作れない』『手当てできない』」――農家はもとより、米業者からも、批判の声が上がっています。

 低米価と混乱を押しつける政府

 昨年産からの戸別所得補償の廃止と政府の需給調整からの総撤退は、需給も価格も混乱を招くと、農民連はじめ心ある人たちがきびしく警告してきました。昨年は作況が98の不作で、こうした事態は避けられました。しかし、TPP11発効での豪州産の別枠輸入が始まる初年度に、増枠した備蓄米が集まらず、今年の作柄が平年作ともなれば、需給も価格も大混乱を招きかねません。

 農水省が「主食米減らせ」「備蓄米増やせ」で躍起になるのは、米政策の失敗が一気に表面化するのを恐れてのものです。

 これは「高齢化」「後継者不足」など、いつ生産を止めてもおかしくない米づくりの現場に、低米価と混乱を押し付けることに対する農民の怒りの反映でもあります。

 需給と価格の安定へ、対策を取るのは当然ですが、収穫時期に作柄に応じて追加的な買い入れをする等、実効ある対策をとるべきです。なによりも戸別所得補償制度の復活と輸入米優先の米政策を改めることが必要です。

 わずかな作柄や需給の動向で、はげしく変動する米情勢や米価。1俵6000円の輸入米と競わせ、日本の農業・食料を危機に陥れる亡国のアベ政権と自民・公明に厳しい審判が必要です。

(新聞「農民」2019.4.22付)
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2019年4月

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