「農民」記事データベース20190318-1352-01

全国鳥獣被害対策サミットでの基調講演

イノシシを資源に
地域の活性化図る

(株)おおち山くじら代表取締役
森田朱音さん(島根・美郷町)

 第6回全国鳥獣被害対策サミットが2月27日、農水省で行われました。基調講演では、株式会社おおち山くじら(島根県美郷町)代表取締役の森田朱音(あかね)さんが、「イノシシを地域の資源に―利活用による地域の活性化―」のテーマで報告しました。報告の要旨に加筆・補筆したものを紹介します。


住民が町ぐるみで関わり実践
食肉加工、革製品、缶詰製造、家畜の飼料…

 過疎と高齢化が深刻な中山間地

画像  島根県邑智郡美郷町は、人口が4700人の山あいの町です。県内でも人口密度が最も低い地域で高齢化率も42%以上。全国の中山間地域と同様、過疎化と高齢化が深刻です。

 しかし、鳥獣被害対策については全国でも先駆けて「地域住民が一丸となって取り組んできた町」です。その秘密は、イノシシを地域の資源にしたい! という住民の意識の高さと、パワフルな婦人会、役場、鳥獣害の専門家、そして地域に住む住民が緊密に連携して、町ぐるみでイノシシに向き合い、自らが望む地域をつくっています。

 私は、福岡県福岡市で生まれ育ちました。2009年に上京して地域活性化のマーケティング会社に勤務していました。12年に狩猟免許を取得、地域活性化をライフワークにするために会社をやめて14年に島根県美郷町に移住し、「地域おこし協力隊」に加わりました。

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全国鳥獣被害対策サミットで報告する森田さん(右から2人目)

 美郷町では、1990年代ごろから、イノシシによる農作物被害が深刻化するなか、99年に、それまで猟友会に一任していた害獣駆除体制をやめ、狩猟免許を取得した農家を中心に駆除班を結成し、獣害対策を研究してきました。

 2004年、「おおち山くじら生産者組合」を設立し、12年に、「鳥獣被害対策優良活動」農林水産大臣賞を受賞しました。

 17年に、常勤のスタッフをおくなど事業体制を確立するために、「おおち山くじら生産者組合」から事業譲渡した「株式会社おおち山くじら」を設立しました。現在は3人の常勤スタッフと5人のパートで運営しています。

年間400頭、駆除・捕獲の80%を食肉処理へ

 生体搬送を実践 衛生管理を徹底

 4700人の町で、狩猟免許をもっている住民は約100人。町全体で駆除・捕獲されたイノシシの約80%が搬送され、食肉処理場で回収・処理されます。近隣の市町村からも搬入されます。こうして私たちは、年間400頭前後の野生イノシシを食肉処理しています。

 野生のイノシシが田畑に被害を及ぼすのは春から秋にかけてです。この時期は、外気温の影響でと殺後の劣化が進みやすいため、屋外で食肉処理をする個人猟師はこの時期に食肉利用しないのが一般的でした。

 しかし、その課題を解決するために、「はこわな」や「囲いわな」でイノシシの外傷を最低限に抑えて捕獲し、生きたまま処理施設に運ぶ「生体搬送」を、地域一丸となって実践しています。連絡があれば、こちらからわなにかかったイノシシを引き取りに行きます。

 また、子どものイノシシや母イノシシを数頭まとめて捕獲できるため、繁殖期の駆除効果が期待できます。さらに、「生体搬送」で生きたままイノシシを処理施設に搬送し十分に血抜きをすることで、衛生的でかつおいしい食肉を製造することが可能です。

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捕獲されたイノシシ

 イノシシが捕獲された場合に、と殺は農家自らが行うのではなく、専属の技術者が行います。捕獲から肉になるまでの状態を確認し、各工程における記録(トレーサビリティーが担保される仕組みづくり)とともに、徹底した衛生管理に取り組んでいます。

 青空サロン市が地域作りの力に

 私たちの獣害駆除の取り組みの最大の特徴は、さまざまな人々がそれぞれの役割をもち、楽しみながら関わっていることです。

 毎週水曜日早朝に青空サロン市を開き、女性を中心に地域の人たちが農産物などを持ち寄り、販売したり、茶菓を囲んで畑づくりや野菜料理などの話をしたりしながら交流します。住民にとって小さな手作りの憩いの場になっています。

 また、婦人会のみなさんが毎週1回、集会所に集まってイノシシの革を使った商品を製作。ペンケースやキーホルダー、ブックカバーなど、どれもデザイン性がよく、つくりもしっかりしていることから、お土産品として人気を博しています。

 こうしてイノシシの被害対策とともに資源利用をすることで、学校給食や飲食店、加工のお母さんたちが関わって地域をつくっていく取り組みになっているのです。

 さらに、イノシシの部位を有効利用し、家畜の飼料やペットフードとしても活用されています。

 肉の販売先は、主に首都圏の飲食店。その他、インターネット販売なども行っています。かつての保育所を使用して缶詰工場を設立し、缶詰製造・商品化も行っており、最近では、イノシシ肉と大豆のキーマカレーの缶詰販売を始めました。これは、“ミサト”つながりで、三重県津市美里町で生産している在来大豆「みさと在来」を使用したものです。

 今後の課題は、若い人材の確保です。狩猟免許をもっている人たちも70歳以上の高齢者が多くなり、捕獲・運搬活動も年々大変になっています。こうした活動はぜひ若い人に担ってほしいと思います。

(新聞「農民」2019.3.18付)
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2019年3月

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