寄稿
「改悪」卸売市場法は
弱肉強食への道
(上)
東北地区水産物卸組合連合会
菅原邦昭
昨年の政府・与党による卸売市場法の改悪(施行は2020年6月)は、国民のための「生鮮食料品等の公正な価格による流通制度」を破壊し、価格決定と流通の主導権を、多国籍資本などの意のままにすること、つまりはTPP(環太平洋連携協定)、FTA(自由貿易協定)体制にわが国の農水産物の生産と流通を丸ごと組み込むために行われたものです。
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卸売市場の役割について語り合ったシンポジウム。左から2人目が菅原さん=2018年4月14日、東京・築地市場 |
改悪前「市場法」は公正原則に基づく優れた制度
公正公平原則に基づく優れた制度として、日本の卸売市場制度は世界的にもきわめて高い評価を受け続けてきました。その評価の核心とは、「人の命と暮らしに必須の生鮮品について、大手による“価格つり上げ”や“価格誘導”、“生産者への買いたたき”を一切排除する価格形成法を採用し(完全競争システム)、これを建値として、社会のすべての生鮮流通に反映させる仕組み」にあります。
日本では、諸外国でたびたび発生する生鮮食品等の組織だった不当なつり上げ、在庫隠しによる価格誘導などの深刻な社会問題は、基本的にはない状態が続いてきました(統制時代は除く)。それは、米騒動(1918年)の深刻な教訓から成立した卸売市場制度、それを受け継いだ戦後の卸売市場制度の存在によります。従って、このような卸売市場制度が「邪魔だ」と忌み嫌う人が一体「何を」やりたがっているのかは明らかです。
歴史をひも解くまでもなく、食料品の価格形成と流通を独占する者は、社会全般の政治経済のさい配を、まさに占有するものとなります。
その意味で、今回の卸売市場法の改悪は、「新自由主義」と一体となったTPP、FTA推進勢力の悪だくみをわかりやすく国民に示したものといえます。これを放置することは、新自由主義=金権・弱肉強食社会の到来を招きます。
この悪法を拒絶し、現行の業務規程を守ろう
政府・農水省は、全国各地の卸売市場に対して、改悪法に基づき、各市場の「業務規程の見直し作業の着手」を呼びかけ、指示しています。
これに基づいて、全国の各卸売市場開設者は、来年6月の法施行を見据えつつ、業務規程の見直し作業のスケジュール化をほぼ終え、この1月から、市場内において、各業者との話し合いを進めることとしています。
ここで注意しなければならないことがあります。「御用」と冠される「識者」や「流通研究者」、「ジャーナリスト」を自称する人々が、「改正法(=改悪法のこと)に沿った業務規程の見直しでこそ、市場の活性化が図られる」などと盛んに言い立てていることです。
この人々は、法改悪の前までは、「1999年と2004年の『規制緩和』で、すでに、卸売市場の『委託集荷原則』と『セリ原則』は撤廃された」と盛んに騒ぎ立てていました。まさに「もうサイは投げられたから諦めなさい」、「外堀は完全に埋められたのだから、新しい道を探しなさい」と言わんばかりの「講演」や「論文」発表の限りを尽くして「諦めムード」の構築にいそしんでいました。
基本方針をよく読み、誤った認識を改める
ところが、これに影響されたかのような声が、本来公正取引原則を守るべき市場関係業者からも聞こえてくることがあります。
たとえば、東京・築地市場の豊洲移転に賛成の一部の業者が、「すでにセリも委託も撤廃された」と繰り返しツイートしているのは、一体どういうことでしょうか。その人はこの1月、NHKをはじめ、各テレビ局が流した「青森・大間のマグロがセリで3億3千万円」のニュースを、一体、どこの話と思って耳にしているのでしょうか。築地はもちろん、全国で厳然と行われている「せり」をよく見て、農水省の第七次〜十次基本方針をよく読んで、誤った「認識」を早急に改めるべきです。そうでないと、「敵の思うツボ」です。
(つづく)
(新聞「農民」2019.2.11付)
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