「農民」記事データベース20190114-1343-07

家族農業
私はこう考える

小農の価値を再発見するビジョンを示す10年に

一反百姓「じねん道」
小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン(SFFNJ)
呼びかけ人
茨城県阿見町 斎藤博嗣さん(44)


SDGS達成へ
世界的課題解決の決め手は「農」

 私は大学卒業後の5年間、流通ベンチャー企業に勤務していました。退職後、NGOの研究も兼ね、船で世界を一周するピースボートに乗り、寄港地の一つだったキューバで実践されている有機農業や農教育に感銘を受け、以後生涯の道標として「農の道」を歩みはじめ、国内外の農家の元などで研さんを深めました。

 小さな家族農家自学自習14年目

 2005年、妻とともに東京から茨城の農村へ移住し、新規就農。「じねん道」の屋号で、世界一小さな家族農家(一反百姓)を夫婦子ども2人で自学自習し14年目です。

 一反百姓は、自然、土地、人間の調和を保つ農業という仕事から生きる力(本質的な生活力)をくみ取っています。野良仕事と食生活のライフサイクルを整え、家庭料理の伝統を伝えて、子どもとの時間を増やし、穏やかに過ごし長生きする「農的ワークライフバランス」の観点で生活をマネジメントしています。

 2011年の福島第一原発事故以降は、自家採種の種子「じねん道のタネ」の販売を通して、農業の抱える課題を、農民・農村の問題とするのではなく、同じ時代、同じ地球上で生活する「私たち皆」の問題として提起する「地球市民皆農・みんな一粒百姓にな〜れ!」を展開中です。

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家族で麦まきする斎藤さん一家(右が博嗣さん)

 家族農業の10年支援団体を結成

 2014年の「国際家族農業年(IYFF)」には、様々なシンポジウムやセミナーに登壇、参加し、フランス人の研究者らと小規模・家族農業の世界的潮流に関する意見交換をしました。

 2017年3月、フランスの研究者が再来日し、私の農園を視察に訪れた際、国際家族農業年を10年延長する「IYFF+10」のサポーター組織を日本でも作らないかと提案されました。6月、有志達とともに、私たち夫婦も呼びかけ人になって「小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン(SFFNJ)」(代表・愛知学院大学准教授の関根佳恵さん)を結成しました。12月、国連総会で「家族農業の10年(2019〜28年)=DFF」が、日本も賛成し採択されました。

 SFFNJは、国連DFFを支持するサポーター組織として、小規模・家族農業の役割と可能性を再評価し、農業・食料政策の中心に位置づけることを求め、学習会、上映会(映画『未来を耕す人びと』)、講演会等への講師派遣、ウェブサイトで発信しています。私も、シンポジウムにパネリストで登壇、講演し、マルシェへの出展等を通じて、小規模・家族農業の魅力を発表しています。

 農を社会的事業と捉え直して

 2018年の国連総会で、日本は「小農の権利宣言」に棄権しました。政府が利益のみ追求する新自由主義経済型農業を推進している表れです。小規模・家族農業の持つ価値をDFFや小農宣言は提言しており、先進国を含む世界全体の問題だというのが本質です。

 持続可能な開発目標(SDGs)など世界的課題の解決の主役は「農」です。食・健康・教育・水資源・生物多様性、異常気象による地球温暖化等「誰もが当事者」の具体的問題を軸に私は活動をしています。

 その点で、国際農民組織ビア・カンペシーナに加盟している農民連さんには、地球規模の視座から交流し学びあい、若者、新規就農者、都市住民に農業へ参入する取り組みを期待しています。

 今年3月、スペイン・ビルバオで開催される「家族農業国際会議」にSFFNJの農民代表として、家族同伴で参加します。世界的にみても、農業は「担い手不足」が共通の課題です。私は、農を個人的職業ではなく、社会的事業と捉え直し、あらゆる人が農業や農村の価値を再発見する根源的なビジョンを示したいです。一人ひとりの足元に「土」がある生活設計こそ、永続可能な社会のグランドデザインであると私は考えます。

(新聞「農民」2019.1.14付)
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2019年1月

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