「農民」記事データベース20181105-1334-14

本の紹介

ジャスト・プロポーション
新しい農業経営論の構築に向けて

長尾正克著


新しい家族農業経営論

画像  「風土に生かされた酪農」をモットーに、輸入飼料に依存した大規模酪農ではなく、自給牧草に依拠した酪農をめざして、北海道根釧地方の酪農家を中心に交流活動を続けている「マイペース酪農」。このマイペース酪農を、農業経営論の視点から学問的に体系化しようと試みた本がこのほど出版されました。

 筆者は、北海道立農業試験場経営部を経て、釧路公立大学、札幌大学などで教壇にも立ってきた長尾正克さんです。試験場時代には、「近代的な企業経営に育成すべく、いかに機械化して、規模拡大をすべきか」について研究していたという長尾さん。しかし研究のため大規模な酪農家を数多く訪ねるなかで、その経営と重労働の実態に疑念が深まっていきました。そうしたある日、マイペース酪農に出会い、「規模拡大すれば生産コストを下げられるというのは神話だと悟った」と言います。

 本著では、まずこれまでの農業経営学や農業経済学が、大規模経営や小農(家族農業)をどのように論じてきたのかを整理。そのうえで、生産と生活が一体化し、農業を生業と考える家族経営の立場にたって、自然と暮らしを最優先にした新しい家族農業経営論を現場から編み出し、確立しているのがマイペース酪農だと評価しています。

 つづいて後半では、マイペース酪農の経営分析や、交流活動や運動の経過を紹介し、慣行酪農とマイペース酪農に代表される低投入酪農の経営をさまざまな角度から比較分析。終章では、あらためて生業的家族農業こそが基本的担い手だと述べ、これまでの経営学理論にはない新たな農業経営学が必要だと呼びかけています。

 ▽筑波書房 TEL 03(3267)8599
 ▽3500円+税

(新聞「農民」2018.11.5付)
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2018年11月

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