関根佳恵さん〈寄稿〉
農民の権利を保障することが
家族農業の10年の具体的目標
2018年10月15〜19日の間、第45回世界食料保障委員会(CFS)がローマの国連食糧農業機関(FAO)で開催されました。農業・食料政策に関わる政府、市民社会組織、研究・教育機関、民間団体等の代表が世界各地から集まり、5日間の熱い議論を交わしました。今年のCFSでは、来年から始まる国連の家族農業の10年(2019〜28年)の運営や具体的な行動計画が重要なテーマの一つです。
|
関根佳恵(せきねかえ) 愛知学院大学経済学部准教授、小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン呼びかけ人代表、国連食糧農業機関(FAO)客員研究員 |
多数の会議・催しの中で、筆者は家族農業の10年やアグロエコロジーに関する集会に参加しました。これらの集会では、「小農と農村で働く人々の権利宣言」(小農の権利宣言)が9月28日に国連人権理事会で採択されたことについても触れられ、会場は祝福のムードに包まれました。小農の権利宣言の誕生は喜ばしいことであると同時に、どれだけこの権利が侵害されているのかという現実を映し出しています。この権利を保障することが、家族農業の10年の具体的目標になるでしょう。10年後の2028年、私たちはこの権利が保障される状況をどこまで生みだすことができたのか、評価にさらされます。
国連と国際社会が、小農の権利宣言と家族農業の10年にときを同じくして取り組むことになったのは、決して偶然ではありません。背景には、持続可能な開発目標(SDGs)とともに、以下の認識が国際的に共有されたことがあります。(1)新自由主義的な農業・食料政策では持続可能な社会を実現できない、(2)その負の影響に最もさらされている小規模・家族農業を公的政策の責任において保護することが国際的な緊急課題である、(3)持続可能な社会実現のために彼らが潜在能力を発揮できるよう政策的支援を各国で実施する必要がある。
さらに、農民連が加盟する国際的農民組織のビア・カンペシーナや国際NGOの世界農村フォーラム(WRF)といった農民を代表・支援する市民社会組織が、国連を大きく突き動かした点も強調されるべきでしょう。
CFSのイベントでパネリストとして登壇したビア・カンペシーナ代表のエリザベス・ムポフ氏(ジンバブエ)の発言が特に印象に残りました。小農の代表として、農民女性の代表として、彼女の一日がどのように始まるのかを語り、「母なる大地」(Mother Earth)と共生するアグロエコロジーが小規模・家族農業によって実践されることが、SDGs達成のための最善の道だと強調しました。
今、日本でも、持続可能な社会に向けて、農業・食料政策の転換とそのための政治的意思が求められています。それは、農業・食料分野に限らず、社会システム全体のあり方を根底から問い直し、変革することにつながるのです。
(新聞「農民」2018.11.5付)
|