「農民」記事データベース20181015-1331-05

北海道 地震・大停電
(上)

離農のきっかけにするな

 9月6日の早朝に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震で、北海道全道が停電する「ブラックアウト」が起こり、多くの酪農家で搾乳作業が滞ったことによる乳房炎の多発や、工場の操業停止による生乳の廃棄などの被害を受けました。経営再建に取り組む北海道の酪農家を訪ねました。
(満川暁代)


乳房炎、生乳廃棄…
酪農家に大打撃

 不眠不休で対応に追われ

 「いやあ、搾った牛乳を廃棄した時は、もう死のうかと思ったよ。これがあと何日続くのかと」――停電当時を振り返り、こう話してくれたのは、別海町の酪農家、竹花新吉さんです。家族4人の労働力だけで300頭を搾乳する竹花さんの牧場では、パーラーでの搾乳作業はもちろん、1日9回行う給餌や、牛舎の除糞に使うバーンスクレッパーなども機械化し、労働集約化を図ってきました。

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竹花さん(右端)から話を聞く農民連の吉川利明事務局長(右から2人目)と北海道農民連の皆さん

 ところがこれらの機械類が停電でいっせいにダウン。停電後は携帯電話で近隣の酪農家などあちこちに連絡し、苦労して大型の発電機を借りました。しかし発電容量が足りず、さまざまな機械を交代で動かすため、本来は1日2回行う搾乳も1回がやっと。給餌回数も量も減らしましたが、通電再開まで不眠不休で対応に追われました。乳房炎になった牛も多発し、乳量回復の見込めない1頭は廃用にせざるをえなかったと言います。

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竹花牧場の自動給餌システム

 鳴いて苦しむ牛 人間も苦しくて

 ロータリーパーラー(乳牛を乗せたターンテーブル上で搾乳する大型の搾乳方式)を導入し、300頭を搾乳している標茶町の株式会社「虹の郷」は、4戸の酪農家で2016年に設立しました。代表の宍戸豊さんは、「うちは2トントラックには載せられないような大型発電機が必要で、停電後はまる2日間、搾乳できなかった。地下水をくみ上げる電動ポンプも止まり、タンクで運んで水をやったが、牛たちは乳は張り、水も足りず、苦しんで鳴いていた。十分に世話してやれない僕たち人間も苦しかった」と、話してくれました。

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「虹の郷」の穴戸さん

 同牧場では、乳房炎にも50頭以上の牛がかかり、停電による一連のストレスで体調を崩し死亡する牛も出ました。「搾乳が再開して、朝牛舎に行ったら、牛舎の通路に横たわって死んでいて…」と宍戸さん。3週間たっても乳房炎が治らず、廃用にした牛も2頭出て、生産量の回復には長時間を要しました。

 同町の酪農家で農民連会員の渡邊定之さんは、「大規模化、機械化推進の酪農政策のもとで、酪農の大規模化が進んでおり、今回の停電ではこれらの大規模農家ほど被害が大きかった。標茶町では10頭以上の死亡牛が出た大規模酪農家もいて、『目の前でバタバタと牛が倒れていくのに、何もしてやれなかった』と話してくれた時は、同じ酪農家として胸が痛んだ」と言います。

回復には長期間かかる
営農継続へ支援策拡充を

 苦労して搾った牛乳も廃棄に

 もちろん搾乳作業や生乳保管には電力が必要で、今回の停電では、小さな酪農家も含めて北海道のすべての酪農家が被害を受けました。またこうした苦労の末に搾った牛乳も、乳業工場が停電で操業を停止したため、廃棄せざるをえませんでした。竹花さんの場合で約13トン、およそ130万円分の生乳の廃棄が迫られました。

 北海道のJAの連合会「ホクレン」は、被害の甚大さを重く受け止め、基金を取り崩して廃棄した牛乳の代金の半額を支給することを発表。別海町の中春別農協のように残りの半額も支給する農協もあり、こうした支援が全道に広がることや、加工原料乳のナラシ対策の発動など、国による支援の拡充が、いま切実に求められています。

新たな負担は離農招く

 停電という大被害を経て、いま北海道の酪農家に突き付けられているのが、非常時用の発電機の導入をどうするかという問題です。「乳房炎などの停電の直接被害だけでなく、発電機という新たな投資が必要となると、離農のきっかけになるかもしれない」――北海道の酪農家の苦悩は続いています。
(つづく)

(新聞「農民」2018.10.15付)
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2018年10月

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