「農民」記事データベース20180806-1322-01

西日本豪雨被害 復旧は急務

規模拡大を支援条件とせず
全被災農家に万全の対策を

農民連が農水省に要請

関連/被災地からの訴え
  /西日本豪雨災害救援募金


 農民連本部は7月26日、西日本豪雨の被害について農林水産省に要請を行いました。大阪、広島、山口、島根、愛媛の各府県から参加者が被災地の実態を訴えました。

 農民連の笹渡義夫会長が農水省の塩川白良審議官に、被災者負担の軽減に努め、従来の枠にとらわれない万全の対策を求める要望書を手渡しました。

画像
塩川審議官(右)に要請書を渡す笹渡会長

 5月20日から7月10日までの豪雨等の被害については全国を対象として7月24日に激甚災害指定の閣議決定がされました。これにより農地や用水路などの復旧事業に対する国庫補助率が引き上げられます。災害復旧事業の実施主体は市町村となります。

 愛媛県から極早生ミカンの収穫期が9月末に控えているなかで、迅速な復旧や査定前着工を求めたのに対し、審議官は「災害復旧事業では査定前着工が行える。その際は必ず写真等で記録を残しておいてほしい」と回答しました。

 また農水省の支援事業では、規模拡大要件が課されています。規模拡大だけでなく原状復帰の場合も対象とすることを求めたのに対し、塩川審議官は「条件適用についてはできるだけ柔軟に対応できるようにしている。何か問題があれば、塩川まで知らせてほしい」と答えました。

 斎藤健農水相は「この水害で一人の離農者も出さない」ことを明言しています。「心が折れそうな中、懸命に頑張っている農家の声を聞いて今後の対策に生かしてほしい」という要請に、塩川審議官も「みなさんの声を追加の対策に生かしていきたい」と約束しました。


被災地からの訴え

ミカン用モノレール大被害
収穫までに早急な復旧必要

愛媛
宇都宮凡平さん(西予市明浜町)

 私の地元の西予市明浜町の隣の宇和島市吉田町では、被害がひどくて、人家の浸水の手当てで精いっぱいな状況です。山の崖崩れなどもありますが、農道などの復旧には全く手がついていません。スプリンクラーなどの施設も壊れたままです。

 これに対して私の地元の明浜町は林道の復旧はほぼ終わり、スプリンクラーや防除用の施設の修理も農家が自力でほとんど完了しています。そのため今後の営農に目を向けることができ、その中で新たな不安が見えてきました。

 被災した農家を離農させないで

 明浜町で今一番心配なのは荷物運搬用のモノレールの被害です。おおざっぱな見積もりですが、100〜200台、距離にして5000メートルほどの被害があると思います。

 修理などをできる業者が限られており、設置費用は1基が約80万円、レールが1メートル当たり1万円かかります。費用的にも負担であり、復旧に時間が必要になります。

 しかし9月末からは極早生ミカンの収穫が始まります。50メートルもの坂をミカンを持って上り下りすることはとてもできません。このままでは、農道から5メートル程度しか収穫できなくなってしまいます。目の前にたわわに実ったみかんがあるのに収穫できないというのは、農家にとってこれほどもどかしいことはありません。

 体が動くうちはがんばろうと思っていた農家が、水害で痛めつけられて折れそうな心を励ましあってがんばっています。

 農水省の説明ではモノレールは災害復旧事業の対象外になっていますが、こうした農家が離農することが非常に心配です。支援策の拡充が産地を守るために絶対に必要です。


ビニールハウス、水田が浸水
青年の希望を奪わぬ支援を

大阪
大坊 幸さん(大阪産直センター事務局長)

 大阪府でも府北部の能勢(のせ)町を中心に、河川が氾濫。新規就農した青年農家のビニールハウスが浸水し、出荷最盛期を迎えようとしていたトマトが全滅する被害が起こっています。

画像
大崩落し、寸断された山あいの道路(能勢町)

 大阪産直センター事務局長の大坊幸さんは、「このほかにも水田が浸水した若い農家もいる。資金や土地情報の乏しい新規就農者ほど、災害など条件の悪い農地で営農せざるをえない事情がある。大阪は被害農家は少ないと見過ごさず、がんばっている青年農家が希望を失わないよう、支援を求めていきたい」と言います。

画像
中山間の田んぼは沢のような水の流れに(能勢町)

 また大阪の野菜産地では、豪雨後すぐに猛暑が続き、葉物野菜が軒並み全滅する被害も出ています。また浸水被害にあった野菜が、出荷後カビが生えるなどの品質劣化した被害事例も寄せられており、「野菜には共済制度がないが、異常気象が原因の被害という意味では同じはずで、対策が必要」と大坊さんは、話しています。

画像
青年農家も浸水の被害を受けました(能勢町)


山林の崩落が多数発生
田畑に土砂、水路を寸断

山口・広島
世良 輝久さん(山口県岩国市)
木戸 菊雄さん(広島県世羅町)

 山口県東部も今回の西日本集中豪雨で大きな被害を受けました。

 山口県農民連書記長の世良輝久さんが住む岩国市では、河川の増水・氾濫のほか、山林の崩落が発生。「岩国は山の上の方まで棚田があり、とくに中山間地を中心に、田畑に土砂が流れ込んだり、農業用水路や農道が寸断するなどの被害が深刻だ」と世良さんは言います。

画像
世良さんの集落は一面の川に(岩国市)

 さらに豪雨直後から連日、猛暑が続き、「農家も懸命に復旧作業をしているが、あきらめている田んぼも多い。米はなんとかできても農道が寸断して、秋の収穫の機械が運べない心配もある。農機具や自宅が浸水している農家も多く、高齢化も深刻で“これを機に米作りはもうやめる”という人も出始めた。一刻も早い復旧工事が必要だ」と世良さんは強調します。

画像
土石流の被害を受けた山あいの集落。2m超の岩や山の倒木がゴロゴロ(岩国市)

 山口県、広島県では山林の崩落もいたるところで起こっています。「戦後、国策でスギの植林が進められたが、輸入自由化で木材価格が暴落し、今では山林が荒れて、保水力が落ちている。そこへ今回の長雨が降り、土砂崩れが起きて、大災害になった。林業を振興しないと、こうした災害はまた起こるだろう」と危惧するのは、広島県農民連会長の木戸菊雄さんです。

画像
ほ湯整備された田んぼも流木と土砂に埋もれてしまいました(岩国市)

 世良さん、木戸さんが強調するのは、「とにかく早く復旧工事が必要」ということです。しかし国の支援対策を申請したくても、市や町の受け付け態勢は非常に遅れており、一人で申請しても相手にされない現状もあります。「市町村合併で行政の職員がそれぞれの地域の事情に疎くなっている。市の人員配置の拡充も求められている。査定前着工ができることも含めて国の支援対策を自分たちもよく研究し、農家の声をまとめていきたい」と、話しています。


西日本豪雨災害救援募金
名義はどちらも「農民連災害対策本部」
▼ゆうちょ銀行から振り込む場合
記号 10030 番号 61671711
▼他の金融機関から振り込む場合
店名 008 普通 6167171

(新聞「農民」2018.8.6付)
ライン

2018年8月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2018, 農民運動全国連合会