「農民」記事データベース20180716-1319-01

クロマグロ漁獲規制

大型船優遇の枠配分を見直せ
沿岸マグロ漁師の生活を守れ!

沿岸漁民650人が抗議行動

関連/沿岸漁民は一致団結しよう


 梅雨の晴れ間の猛暑となった6月25日、炎天下の東京・霞が関の農水省前を、ねじり鉢巻きで日焼け顔のマグロ漁師たちが埋め尽くしました。水産庁が「七月から太平洋クロマグロの漁獲規制を罰則付きのTAC(タック)制度に移行する」と、事前に内容説明もせず、30日間のパブリックコメントを勝手に9日間に短縮し、強行しようとしたからです。この日は、北は北海道、南は沖縄県石垣島まで、全国から650人の漁師が参集。「沿岸マグロ漁師の声を聞け!」「枠配分を見直せ」と、声を上げました。これだけ多くの沿岸漁師が集まり、声を上げるのは初めてのことです。

 沿岸漁民排除の理不尽な枠配分

 太平洋クロマグロは近年、資源量が減少し、その資源管理をめぐって水産庁は今年6月まで「自粛要請」として30キロ未満の小型魚に対し漁獲規制をしてきました。しかしTAC制度への移行に伴い、7月からは30キロ以上の大型魚にも漁獲規制を行うとして、表のような漁獲枠配分を発表。

 ところがその漁獲枠は、ニッスイやマルハニチロなどの大手水産関連企業も参加する大中型巻き網漁業に大半を配分、沿岸小型漁業者の枠は4分の1以下という理不尽なものでした。しかも枠配分の決定プロセスから当事者である小規模沿岸漁業者を排除し、なんの事前説明もしないまま、水産庁はTAC移行を実施しようとしたのです。

 資源管理は賛成 枠配分を公正に

 この共同行動を呼びかけたJCFU全国沿岸漁民連絡協議会の代表者らはこの日、齋藤健農水大臣に面会、(1)現場へのていねいな説明と、TAC制度実施の延期、(2)小規模沿岸漁業者の配分枠の増加、(3)産卵期のクロマグロの禁漁、(4)クロマグロ休漁に伴う生活支援対策を求めました。

 沿岸漁業者は、クロマグロの資源管理や漁獲規制そのものに反対しているのではありません。日本漁業の94%は小規模沿岸漁業経営体で、沿岸マグロ漁業者は全国で2万隻近いのに対し、大中型巻き網漁業は全国でも数十隻しかいません。水産庁が一方的に決めた大規模漁業優遇の枠配分を見直し、沿岸マグロ漁を守るため小規模沿岸漁業の枠を拡大することを求めているのです。

 JCFU世話人で北海道焼尻島のマグロ漁師、熄シ幸彦さんは「漁獲規制をする際には小規模沿岸漁業を最優先に守ることがFAO(国連食糧農業機関)などの国際的取り決めでも明記されている」と言います。

 巻き網船は産卵期に乱獲するな

 農水省前の抗議行動に引き続いて国会内で行われた水産庁との交渉では、「この枠配分では小型船は廃業しかない」という悲痛な訴えとともに、「大中型巻き網漁を規制しろ」、「産卵期のマグロを捕るな」という声も数多くあがりました。

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時には怒号も飛び交い、緊迫したやりとりが続いた水産庁交渉。テレビ中継でつながれた第2会場にも参加者があふれた

 新潟県佐渡島の漁業者は、「佐渡沖では産卵に集まったマグロの群れを、巻き網船が毎日、一網打尽で捕っている。巻き網船は資源破壊しかしていない」と発言。北海道函館市戸井地区の代表が、「なぜ沿岸漁民の声も聞かずに枠を決めるのか。TAC規制になれば、違反者は30年以下の懲役か200万円以下の罰金だ。水産庁の政策は沿岸漁民を犯罪に巻き込むようなものだ」と述べると、「そうだ!」と会場が騒然とする場面もありました。

 築地市場のマグロ仲卸の渡辺和義さんもかけつけ、「私たちマグロ業者も価値あるマグロを、価値ある値段で売りたい。産卵マグロは身質も悪く値が付かない。大量水揚の巻き網漁は、相場も破壊している。巻き網が優遇されて、私たちにとって一番大切な沿岸のマグロが規制されるのはおかしいし、マイナスだ」と訴えると、会場の漁業者から「ありがとう!」とのかけ声とともに、大きな拍手が湧きました。

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漁業者が掲げたプラカードの1枚

 JCFUからは事前に全政党の農林水産委員と衆参議員全員へ出席を案内。集会へ出席した立憲民主党、日本共産党、国民民主党の議員代表へは各地の沿岸マグロ漁民代表から要望書が手渡されました。「水産庁職員がこの10年間で13人も巻き網業界に天下りしている。これではモノが言えなくなる。大規模だけを守る水産政策でいいのか」という出席議員からのあいさつには、会場から大喝さいが起こりました。


沿岸漁民は一致団結しよう

農水省前の抗議行動
怒りの声が次々

 農水省前での抗議行動には、色鮮やかな大漁旗が何枚もひらめき、全国各地から駆けつけた漁民が次々と怒りの声をあげました。

 北海道函館市戸井地区の青年漁業者は、「このままでは廃業に追い込まれ、生活が成り立たない。国はわれわれ沿岸漁民を殺す気なのか! こんな不条理な配分をして、どこまで漁民を苦しめるのか。心同じく集まった全国のみんなと手を取り合い、なんとしても配分を見直せと訴えていきたい」と表明しました。

 同じく北海道松前地区の代表は、「資源管理は大切だ。しかしこの枠配分は沿岸漁業者には死活問題だ。地域全体の消滅にもつながる。漁業者の生活を守るため、一致団結してがんばろう」と呼びかけました。

 「対馬沖はマグロの産卵海域になっており、目の前で飛び跳ねるマグロを見ても、未来世代のためとこぶしを握りしめて漁を断念してきた。しかしその海域で、今日も巻き網が産卵期のマグロを一網打尽に捕っている」と訴えたのは、長崎県対馬の代表です。

 JCFU世話人で千葉県沿岸小型漁船漁協の鈴木正男さんは、「3年前、全国の小規模漁業者の声を一つに集めようとJCFUを立ち上げたことが今日の行動につながった。これはマグロだけの問題ではない。沿岸漁民の声の通る水産行政にしていこう」と訴えました。

(新聞「農民」2018.7.16付)
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2018年7月

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