農民連全国委員会決議
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もうひとつの歓迎すべき世界の流れは、新自由主義政策に抗して持続可能な社会に向けて力強い流れが生まれていることです。
2015年9月、国連本部で開催された「国連持続可能な開発サミット」は、193の加盟国が一致して「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択しました。「アジェンダ」では、「誰一人取り残さない」を理念として、国際社会が2030年までに貧困を撲滅し、持続可能な社会を実現するための重要な指針として、17の目標を「持続可能な開発目標」(SDGs)として設定し、飢餓の克服や農業、食料、環境などが重要な課題にされています。
この「持続可能な開発目標」の実施に貢献することを含めて決議されたのが2017年12月20日の国連「家族農業の10年」です。そして、ゆるやかな枠組みである「家族農業の10年」よりさらに踏み込んで家族農業を後押しする枠組みとして国連人権理事会が策定作業を行っているのが「農民の権利宣言」です。「宣言」は直ちに拘束力をもたないものの、世界人権宣言が国際人権規約につながり、核兵器廃絶宣言が核兵器禁止条約に発展したように、今後、より各国を拘束する力をもったものに発展する可能性があります。
日本では新自由主義に基づく格差と貧困拡大政策、アメリカの核の傘による軍事同盟強化と軍拡政治が推進されています。しかし世界的には、対立から共存へ、核兵器による抑止政策から核兵器のない世界、原発政策からの脱却、そして持続可能な社会へと大きく舵(かじ)が切られています。安倍政権の家族農業と農山漁村切り捨ての暴政は、持続可能な社会への逆行であり、世界の流れとは真逆のものであることは明らかです。
私たちの目の前にある現実は厳しいものがありますが、決して諦めず、世界の流れと固く連帯して運動を強めようではありませんか。
国連は長年にわたって、途上国・先進国を問わず近代化・大規模化による「緑の革命」を推進すれば、飢餓や貧困を解消できるという立場でした。これは、多国籍企業の利益を最大化する世界銀行、IMF(国際通貨基金)、WTO(世界貿易機関)などのねらいに沿ったものでした。
しかし、こうした方向は、飢餓や貧困を拡大し、農薬や化学肥料による環境汚染の広がり、地下水の大量くみ上げによる水位の低下や塩害、化石燃料への依存と気候変動、食の安全性など、農業の持続可能性を揺るがす事態を引き起こしてきました。2007年、08年には世界的な経済危機、原油価格や穀物価格の高騰、食糧危機に直面しました。これを契機に国連は、各国の民衆の運動にも押されて家族農業を基調にした農業・食料政策に大きく舵を切りました。
農民連は、政府の一律な規模拡大の押し付けに反対するとともに、経営規模が小さければ小さい方がいいという立場はとりません。農家が自主的に適切な範囲で経営規模を拡大することが望ましいと考えます。日本の農業は、この間の政府の政策で耕作面積の平均は拡大しているとはいえ、世界と同様に家族経営が中心です。
日本における家族農業か否かの区分は、企業的収奪型かどうかにあります。けっして経営規模の大小や法人・集落営農などの経営形態ではなく、地域に居住して自ら農作業をしている経営は全て家族農業であると考えます。
この間、農業の効率化をめぐって労働生産性=単位労働時間当たりの収穫量・産出額が基準にされ、日本は他国に比べて耕作面積が小さいために労働生産性が低いとされ、一律な経営規模の拡大が促進されてきました。しかし土地生産性でみれば、収量、販売額ともに大規模農業より小規模農業の方が高いのが現実です。
同時にいま、農地面積あたりに投入されるエネルギーの効率性が注目されています。これは、化学肥料や農薬を作るための石油、農機具や運搬するための燃料など、投入されたエネルギーが、どの位のエネルギーを生み出しているかというものです。小規模経営のほうが大規模経営より圧倒的にエネルギー効率が高くなっています。
もう一つは、雇用の問題です。EU(欧州連合)は戦後、農業の近代化で、1農業経営体当たりの労働力を減らす政策をとってきましたが、コミュニティーが維持できないことから、共通農業政策の議論の中で、農村の雇用の創出、小規模・家族農業の維持発展が注目されています。
日本でも北海道では、規模拡大した結果、農民が減少して人口も減り、小学校が廃校になった、郵便局やスーパー、ガソリンスタンドなどインフラもなくなり地域が成り立たなくなったと報告されています。こうした現象は全国各地に共通しており、特に農業が立ち行かなくなった中山間地での過疎化と集落の危機は深刻です。こうした時に、家族農業の自営業としての雇用力、職業創出力、雇用の柔軟性が大事になってきます。
国連機関の報告では、大規模農業に比較して小規模農業の方がむしろ効率的であり、「適切な支援が行われれば、食料保障、雇用の創出、貧困削減に大きく貢献する能力が備わっている。さらに、生物多様性や自然資源の持続的管理、文化的遺産の保護にも貢献することができる」と述べています。
そこで「適切な支援とは何か」を考える際に、「農業と工業の違い」を踏まえることが決定的に重要です。
農業は気象や水などの自然力に依存して農畜産物を育てる産業で、温帯地方では冬は稲を作れず、冷害になれば減収しますが、自動車は夏冬問わず作ることができ、冷害や干ばつで「減収」することもありません。また、自動車はハンドルから作ろうがエンジンから作ろうが、順序は自由自在であり、分業で同時並行作業が可能であるのに対し、農産物は種をまき、育成し、収穫するという順序を絶対にひっくり返すことはできません。さらに、地形的・土壌的な条件による影響もあります。加えて、農民が農産物を売るときは安く、生産・生活資材を買うときは高いという社会的・経済的に不利な条件もあります。この農業の自然的・経済的・社会的不利を社会的に補うことこそが政治の責務です。
具体的には、農民連が一貫して主張してきた食料自給率の向上を最優先して(1)農産物輸入のコントロール、(2)生産費を償う価格保障・所得補償、(3)多様な担い手を育成すること――です。
農政をこうした方向に転換し、国、自治体と地域社会、農業団体、農民が一体となった国家プロジェクトとして農業と農山漁村再生運動を展開する。この方向こそが、国際社会の努力と一致するものです。こうした支援が行われれば、家族農業の能力は発揮されることでしょう。
農民連は、「家族農業の10年」を、家族農業を切り捨て、農業と農村を大企業のもうけの場にする安倍官邸農政に、正面から対置する運動として全国的なたたかいを展開します。
同時に、「家族農業の10年」に呼応した地域からの運動として食料自給率向上、農山漁村を再生する国民運動」を展開します。
日本のたたかいをビア・カンペシーナを通して世界の流れに発展させるために全力をあげます。
「家族農業の10年」は、日本政府が共同提案国になって国連総会が決定したものであり、自治体やJAをはじめ、広範な関係者に賛同を呼びかけやすい条件にあります。この条件を生かし、単なるキャンペーンにとどめず、農政を変え、地域から生産を広げて農山村を再生する草の根からの運動に広げましょう。
(2)全ての自治体や農協などに「家族農業の10年」に呼応したとりくみを呼び掛け、住民ぐるみで自らの地域を創造する話し合いを行い、自治体が家族農業を中心にした多様な農業を発展させるプログラムを練り上げ、「家族農業宣言」「地域農業(経済)振興条例」の制定をめざします。
(3)地域にあった多様な生産戦略をもち、地産地消型、地域循環型の他産業と連帯した「6次産業的」な取り組み、安定した販路の開拓を広げます。
(4)生産を維持するための多様な助け合い型の生産支援体制の構築を進めましょう。
(5)化石燃料と化学肥料依存の生産から、環境負荷を軽減し、安全で持続可能な生産への探求を行いましょう。ビア・カンペシーナが呼びかける「持続可能な農業のあり方」「アグロエコロジー」の論議を深めましょう。
(6)運動の大きな節目として、2019年に、ビア・カンペシーナ地域会議を日本で開催し、国際シンポジウムの開催を検討します。
[2018年7月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
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