町が就農まで手厚い支援
担い手づくり
農民連ふるさとネット
かみなか農楽舎視察
福井・若狭町
農民連ふるさとネットワークの担い手づくり視察研修交流会が4月12、13の両日に行われました。
今年の視察は、昨年の奈良県明日香村で行われた交流会のときに報告を受けた、かみなか農楽舎(福井県若狭町)を12日に訪問。13日は石川県内で先進的な営農をしている生産法人3件を視察しました。
高い定着率が評判
17年間に26人定住
1週間共同生活 地域生活ならす
かみなか農楽舎で迎えてくれたのは、農楽舎の下島栄一取締役と若狭町総合戦略課の植野継男さんです。二人から農楽舎の経緯や概略を聞き、質疑応答を行いました。
かみなか農楽舎では稲作を中心にした研修受け入れを行っています。植野さんは「この地域は米作地帯なので、米作りを知らないと就農できません」と話し、研修生は共同生活を送りながら米作りを学んでいきます。
取り組みの特徴の一つに、研修生の高い定着率(45人の卒業生のうち、26人が就農などで町内に定住)があります。そのポイントは就農後に支援をする「親方」を決めていることと、研修中に村の生活に溶け込めるようにしていることです。
かみなか農楽舎が
研修生を受け入れ
「希望者のどこを見て採用するのか」との問いに「まずは、集団生活ができることが第一の条件です。そうでないと地域では暮らしていけません」と植野さん。希望者は研修生とともに、1週間共同生活をしながら農作業体験を行います。そのうえで面接に臨むことになります。
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農楽舎から研修用の田んぼや地元の末野集落が見渡せます |
研修、就農を進めるうえでの経済的な支援も充実しています。農楽舎で研修中の人には、奨励金制度(1年目は月5万円、2年目は月7万円)があり、研修生は国の農業次世代人材投資事業と奨励金制度を自分で選択することができます。
研修生は農楽舎の研修棟で生活します。ひとりひとりに個室はありますが、炊事や掃除は当番制で行うなど、共同生活をします。自己負担は月1万円程度で済みます。
新規就農者には保育園の建物を改装したアパートも町が用意をしています。定住するための住居が見つかるまでの間、低家賃でこのアパートに入居することができます。また住居の確保に関しても、町と協力して行っています。
国の人材投資事業とあわせ
独自に経済的支援
営業経験も研修中に積んで
また、もう一つの特徴として、研修中に営業経験も積んでもらうことです。主に冬期に行うのですが、飛び込み営業を行っています。米を売り込み、研修終了後はその販路をそのまま持っていくことができます。
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倉庫の中には田ぐるまが。今も現役です |
「方法は各自に任せていますが、まずは縁故を頼って営業をかけることが多いです。スーパーでの店頭販売や、チラシを手に一軒一軒訪問する人もいました。営業での反応から、翌年の栽培計画を自分で見直すことができます」と農楽舎職員の八代恵里さんは話します。
定住のため行政が協力
低家賃の住宅も用意
“将来やめたい”現農家に危機感
「親方」となる農家とのマッチングも大きな特徴です。農楽舎では行政が間に入りながら見定めていきます。研修生の進路は、独立のほかに、地元の生産法人(親方や卒業生が経営)、かみなか農楽舎への就職などがあります。
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研修用の有機の田んぼ。冬期たん水を行っています |
こうした町主導の取り組みができたポイントを下島さんは「住民の意識が大切だった」と語ります。1998年に農業委員会が地元にアンケートを行ったところ、将来農業をやめるとほとんどの農家が答えたことに町が危機感を持ったのがスタートでした。町は観光農場をつくる計画から研修施設へと変更します。「最初は都会から人が来るのか、半信半疑でした。しかし設立1年前のプレイベントに8人参加してくれたことで不安が解消されました」
農楽舎
地域の活性化に大きな役割果たす
応募減ってきた いま大きな課題
かみなか農楽舎は今年で17年目を迎えます。現状の大きな課題は、研修生の応募が減ってきているということです。「他の自治体でも、取り組みが増えたためか、新・農業人フェアなどでブースを出しても、訪問者自体が減ってきています」と植野さんは話します。
それでも農楽舎は、地域の活性化に、おおきな役割を果たしています。「定住者の姿を見て、都会に出ていた地元農家の子どもが就農するなど刺激になっています」と下島さんは話しています。
参加した京都産直センターの高室尚吾さんは、「町と地元の前向きな協力がよく分かりました。また、販売や地域行事への参加などの指導もされていて、地域に定着させるための取り組みも、地域農業を守るために非常に大切だと感じました」と感想を話していました。
(視察2日目については後日掲載します)
(新聞「農民」2018.4.30付)
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