「農民」記事データベース20180423-1308-10

ふるさと
よもやま話

青森県農民連副会長
石村孝憲


「繰り言」で農業語って
家族農業を若者たちに

 青森県の津軽西北五農民組合は、西津軽郡、北津軽郡、五所川原市の頭文字を取って命名した組合で、23年前に津軽農民組合から独立し、五所川原税務署の管轄地で税金運動を中心に活動しています。

 津軽平野の7割を占める水田地帯ですが、組合員の9割がリンゴ農家です。写真は、津軽平野の北東から撮った“津軽富士”岩木山で、東から見れば漢字の「山」の形に見え、津軽平野の水源となる「お山」です。

 語り合う時間を奪った農業政策

 私の家は、岩木山の北の登山道入り口まで8キロメートルくらいのところで、昔は家から歩いて登山したものです。高校時代に山頂から眺めた津軽平野は、東に八甲田連峰、西は白神山地から連なる山波に挟まれ、「十三の砂地」で知られる十三湖に流れ込む岩木川沿いに広がり、黄金色に輝く絶景で、農業への夢を募らせるものでした。

 男4人兄弟の次男の私は24歳で、未来は青年のものだと農業に夢を抱いて家を継ぎました。今年で46年目になり、繰り言が多い70歳になってしまいました。1・5ヘクタールのリンゴ園を経営していますが、後継者はいません。

 家族農業に支えられた農業が持続可能だといわれますが、政府の調査でも、2ヘクタール以下の農業経営体が78%、「自分が家族経営だ」と答える農家が98%を占める日本で、なぜ後継者不足、高齢化、労働力不足の問題が起きてしまったのでしょうか。

 農産物の自由化を続け、一人当たりの生産性が向上すると、規模拡大だけを後押ししてきた農政は、農家を忙しくしただけで、農家から農業を語り合う時間を奪ってしまいました。

 親の繰り言聞き今の自分がいる

 「忙しい」という字は、「心を亡くする」と書きますが、多忙は大切なことを忘れさせてしまいます。子どもたちが学校に通っている時期に、農業についてもっとよく話し合っていたならと後悔しています。

 親の「繰り言」を聞いて育ってきた者として、「繰り言」が歴史をつくり、今の自分がいることを悟り、自覚的に老いの「繰り言」に励まなければと思っています。

 地域農業再生のため、国連が定めた「国際家族農業年」(2014年)の成果を来年から始まる「家族農業の10年」でさらに学び、明日の農業を担う若者たちに広めてゆきます。

 今年のリンゴの生育状況は、昨年より5日以上早く進んでいて、作業が追い付けないでいますが、岩木山を眺めながら、老いの体にムチ打って、妻と二人でリンゴづくりと「繰り言」を続けています。

(新聞「農民」2018.4.23付)
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2018年4月

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