ふるさと
よもやま話
福井県農民連会長
玉村正夫
コウノトリが舞う
里づくりをめざして
私の住んでいる福井県越前市では、行政と市民、農業者が一体となって、「コウノトリが舞う里づくり」の取り組みが進められています。
コウノトリは、国の特別天然記念物に指定され、野生の個体は一度は日本から姿を消しました。現在では、兵庫県立コウノトリの郷(さと)公園(豊岡市)などが野生復帰をめざしています。
コウノトリへ温かい見守り
越前市が取り組む背景には、地域の人々が、昭和45(1970)年に飛来した、くちばしの折れたコウノトリ「コウちゃん」への温かい見守り活動があり、コウノトリが定着できる環境を築いていきたいと願う市民の熱意がありました。
「コウちゃん」はその後、豊岡市にある人工飼育場に移送され、「武生(たけふ)」と名づけられました。34年余り生き続け、平成17(2005)年に長寿を全うしました。生存中は、1羽の子と4羽の孫を残しています。
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水田でエサを探すコウノトリ(越前市提供) |
生きものと共生
越前市では、コウノトリをシンボルに「生きものと共生する越前市」をめざして、平成23(2011)年に「コウノトリが舞う里づくり構想」を策定しました。そして、里地里山の保全活動、環境調和型農業の推進と農産物のブランド化、学び合いと交流の3つの方針のもと、現在では、市民一丸になって構想の実現を図っています。
コウノトリが飛来した地域の農家は、環境にやさしい農業の普及を推進するためとして、「コウノトリを呼び戻す農法米」の生産を行っています。今では農薬や化学合成肥料の使用を抑えた福井県特別栽培米の越前市での作付面積が、県全体の約4割を占めるところまできています。
また、越前市では、平成24(2012)年度から市内の小中学校の学校給食に特別栽培米を導入して、子どもたちへの安全・安心な食の提供や食育を進めながら、子どもたちに身近な川や山、田んぼでの自然体験や農業体験などの自然環境学習を行っています。
昨年5月には、「コウちゃん」の孫にあたるコウノトリ2羽が放鳥されました。今年の1月には、別の2羽の目撃情報がありました。
次世代へつなぐ
「水辺と生き物を守る農家と市民の会」会長を務めるのは、農民連会員で地元農家の恒本明勇さん(71)。「農業は、食料の安定供給といった役割と豊かな自然環境の保全機能をもっています。『コウノトリを呼び戻す農法』を通し、コウノトリをこの地に呼び戻すことと、おいしいお米と多様な生き物を育み、コウノトリが戻ってくる豊かな環境づくりをめざします。こうした活動を続けていきながら、この活動を次世代へつなげていく使命を感じています」と話しています。
(新聞「農民」2018.3.5付)
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