「農民」記事データベース20180205-1297-01

後継者育てて地域農業守ろう

スリーリトルバーズと
東総農民センター
寺本幸一さん
千葉


農民連会員の力で
青年農家を応援!

 「農業後継者を育てることで、地域の農業を守ろう」と、青年農業者の応援に奔走している農民連の会員がいます。千葉県匝瑳(そうさ)市飯塚開畑(かいはた)地区の稲作・畑作農家で、千葉・東総農民センター執行委員の寺本幸一さん(69)と利幸さん(42)親子です。

 地域の農業を守ろうと立ち上がったのが、この地域で展開されているソーラーシェアリングの下の農地の耕作を請け負う農業法人「Three Little Birds(スリーリトルバーズ)」に集まった3人の農業青年たちです。

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左から2人目が寺本幸一さん。中央は佐藤さん。右から2人目が利幸さん

 耕作放棄地にメガソーラー建設

 ソーラーシェアリングとは、農地に支柱を立てパネルを設置して、太陽光発電を行いながら同時に下の農地で耕作もする「営農型太陽光発電」のこと。飯塚開畑地区では40年ほど前に農地開発事業で山林を切り開き、広大な農地が造成されましたが、粘土質の土壌で厳しい耕作条件の農地だったことから、耕作放棄地が広がり、深刻化していました。

 ここに、地域と市民が主体になってソーラーシェアリングを導入し、売電収入を「地域農業を守る力」にしていこうという取り組みが、2014年から合同会社「市民エネルギーちば」を中心に進められてきました。

 昨年3月には、総面積3・2ヘクタール、設備容量1メガワット、年間発電量約1424メガワットアワー(一般家庭消費電力約288世帯分)という、ソーラーシェアリングでは日本初のメガソーラー発電所も完成しています。

 しかし、ソーラーシェアリングで「肝心」なのは、下の農地での耕作を、「誰が、どう続けるか」ということ。現在、ソーラーシェアリングの下では、大豆や小麦、ビール麦を耕作していますが、それを請け負っているのが、地域の農業青年を中心に2016年に設立された農業法人「スリーリトルバーズ」です。もちろんメンバーのなかには、農民連会員の寺本さんといった、若者たちを支えるベテラン農家もいます。

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メガソーラー発電所。下では大豆を栽培

 新しい農業者の受け皿にしたい

 代表社員の一人、佐藤真吾さん(36)は匝瑳市内の施設園芸農家の後継者。もう一人の代表社員の齋藤超(こゆる)さん(32)に誘われ、スリーリトルバーズに参加しました。

 専門学校生だったころに友達の自殺に直面し、生き方や未来を真剣に考えるようになったことがきっかけで、食べ物をつくる農業の大切さに気づき、就農した佐藤さん。「福島第一原発事故を見て、エネルギーについて自分も地域からアクションできることはないかと思っていた」と、参加への思いを話します。

 けれど、視野は今後の展開にも広がっています。「太陽光発電もいいことだけど、目的はそれだけじゃなくて、スリーリトルバーズがこの地域の新規就農者や移住者などの新しい農業者の受け皿になっていければ。売電収入から作業委託費が払われるので、収入にもなるし、いずれは農業機械も貸し出せるように整備していきたい」と佐藤さんは言います。

 そんな佐藤さんが尊敬しているのが、寺本幸一さんです。「そもそもこの寺本さんがいなかったら、今の開畑地区の農地はもっと荒れ放題だったんです。この土台がなければできなかったことだと思うし、その後を引き継いでいけばいいというのは、すごく大きなこと」(佐藤さん)と、寺本さんへの信頼は絶大です。

 地域の機械作業を一手に受託

 もともと施設園芸農家だった寺本さんが、耕作放棄地が広がり、荒れ放題だった開畑地区の様子に胸を痛め、施設園芸をやめて畑作と稲作に転換したのが20数年前のことでした。「最初は“草刈りおじさん”だよ。機械も刈払い機くらいしかなくてね。そこに大豆を作って、麦を育てて。機械も整備してきてね」と、幸一さん。

 今では、息子の利幸さんと合わせて水田12ヘクタール(うち利幸さんが7ヘクタール)、大豆などの畑作4ヘクタールを耕作するほか、所有する大きな農業機械をフル活用して、地域の高齢化した農家や、機械を持てない新規就農者などからの収穫や乾燥、調整・選別などの作業受託も一手に引き受けています。ソーラーシェアリングの下の耕作も始まった当初は寺本さんが請け負い、スリーリトルバーズ発足後は佐藤さんらに引き継いで、今はメンバーの一人として物心両面で若者たちを支えています。

 そんな寺本さんの役割を、東総農民センターの会員で、農業委員としてソーラーシェアリングの建設に尽力してきた、今井睦子さんは、「機械を貸したり、動かしたりしてくれる寺本さんのような人がいるから農業を続けられる高齢者や若い農業者が、この地域にはいっぱいいるの。寺本さんがこの地域の家族農業を支えているのね」と、誇らしげに話してくれました。

 大豆畑トラストにも取り組む幸一さん本人は、「いやあ、食べ物は大事だよ、国産だよっていうことだよね。“もうかるよ”なんてとっても言えないもんなぁ」といたって自然体。でも「とにかく若い人が働ける場所を作りたいね。それに楽しくなくちゃ。最近、この地域も若い人がいるグループが増えてきて、その大豆も俺が刈るんだよ」と、長年の苦労の末の地域の変化に、手ごたえを感じているようでした。

家族農業を守る役割も次世代に

 そしていま、幸一さんの地域でのこうした役割もまた、次の世代に引き継がれています。洋食のシェフをしていた息子の利幸さんが昨年就農。「トラクターか、コンバインか、年中、どちらかに乗ってる。一年中、植えて、刈って、その間に草取りして」と笑う利幸さん。今では地域のライスセンターを支える担い手でもあります。お金にならない畑作や稲作へと苦労しながら転換し、地域農業を支えてきた幸一さんの背中を見て育ってきました。

 「でも今は経営も安定して、それを引き継げばいいから。地元に若い世代が少ないのが悩みと言えば悩みかな。だからこの経営規模でなら農業で生活できるというのも見せたいなと」

 地域の農業の未来を見据えて、若い生産者同士が助け合う――新たな模索がいま始まろうとしています。

(新聞「農民」2018.2.5付)
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2018年2月

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