改憲
2018年は正念場
(上)
全国革新懇代表世話人
法政大学名誉教授
五十嵐 仁さんに聞く
安倍首相が改憲策動を強めるもとで、2018年は、日本国憲法にとって正念場の年です。憲法をめぐる今の状況と2018年の展望について、全国革新懇代表世話人で法政大学名誉教授の五十嵐仁さん(政治学)に聞きました。
「戦争できる国」作りの総仕上げ
9条改憲を本気で狙う安倍首相
野党の一部に受け入れやすい案に
安倍首相は昨年5月3日、憲法9条に自衛隊を明記し、2020年に施行するという改憲案を打ち出しました。
その後、森友・加計疑惑で追いつめられ、7月の都議選で自民党が惨敗して内閣支持率も3割を切るなど、改憲への動きは一時より後退したかのようにみえました。
しかし、10月の総選挙の結果、「改憲勢力」が8割を占めたため再びギアを入れ替え、攻勢にでようとしています。
安倍首相は公明党や維新、民進党など野党の一部も受け入れられやすいようにと、4項目を打ち出してきました。自民党の改憲案より実現可能性を優先し、本気で変えようとしているからです。
その内容は、(1)9条への自衛隊の明記、(2)緊急事態条項の創設、(3)「合区解消」論、(4)高等教育の無償化――です。その中心は9条改憲論にあります。
総選挙の結果、「改憲勢力」が衆参両院で3分の2以上を占め、改正発議が可能な、きわめて危険な状況になりました。危機感を高めている方も多いと思います。
一枚岩ではない改憲勢力の中身
しかし、次の点をみておく必要があります。
第一に、改憲勢力といってもその中身はバラバラで、一枚岩ではない。安倍首相のいう9条改憲論を支持している人は決して多くはありません。
憲法は「不磨の大典」ではなく、96条に改憲手続きの規定がありますから、改正が許されないわけではない。しかし、それには限界があり、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3大理念を破壊するような改憲は許されません。
「改憲勢力」のなかには、平和主義を破壊する9条改憲論者もいる一方、高等教育無償化や地方自治の充実など、理念に抵触しない改正を主張する論者もいます。安倍首相がめざしているのは、憲法の平和主義理念を壊す“壊憲”です。この安倍9条改憲論を支持する最も危険な勢力を、他の「改憲勢力」から切り離して孤立させ、その狙いと危険性を暴露しながら攻撃を集中することが大事です。
改憲が緊急に取り組む課題か
第二に、憲法を今変えることが、日本が直面している最大の政治課題なのかということです。取り組むべき緊急にして最重要な課題は景気の回復であり、貧困と格差の是正、社会保障の充実、少子・高齢化の解決、くらしと営業を守り平和と安全を確保することです。決して、憲法改正ではありません。
憲法を変えれば、これらの問題が解決するのでしょうか。憲法に自衛隊を明記すれば従米・軍事大国をめざすかのような誤ったメッセージを世界に発信し、かえって日本の平和と安全を脅かすことになるでしょう。
具体的な現れにすべて反撃して
第三に、9条改憲の問題を、これだけ取り出して単独でとらえてはなりません。これは、一連の「戦争できる国」作りプロジェクトの総仕上げという位置づけだからです。安倍首相は、そのための法律や制度の整備を着々と進めてきました。
国民の言論の自由や知る権利を脅かし、軍事機密を守るための特定秘密保護法、集団的自衛権行使を一部容認する安保法制、戦争反対の市民・社会運動も規制できる共謀罪法などです。国家安全保障会議(日本版NSC)も設立しました。
今度こそ、9条という「本丸」に手をつけ、「戦争できる国」に変えていくことを本気でねらっています。こうした具体的現れ一つ一つへの反撃が必要です。
(つづく)
(新聞「農民」2018.1.1付)
|