「農民」記事データベース20171204-1290-01

キャベツ、ビートブロッコリーに
重大な影響及ぼす

テンサイシストセンチュウ
国内で初めて確認

長野県諏訪郡原村

 今年9月1日、「これまで日本にはいなかったテンサイシストセンチュウという病害虫が、長野県原村で確認された」と農水省が発表しました。長野県農民連諏訪農民センター代表で、原村の鉢花・野菜農家の菊池敏郎さんの案内で、原村の野菜農家を訪ねました。


調査結果と防除方針
一刻も早く公表を

 農家の気づきで農水省も調査

 原村は標高900〜1100メートル、八ヶ岳山麓の広い裾野に広がる、高原野菜の大産地です。夏の生産高日本一を誇るセロリをはじめ、ブロッコリーや、キャベツ、ハクサイなど、日照時間の長さと寒暖の差を生かした野菜作りが盛んに行われています。とくにブロッコリーは若い生産者が多く、近年生産量が増えている重要な作物です。

 その原村で今年の夏、アブラナ属の野菜を栽培するある農家が生育不良の株があることに気付き、専門家に鑑定を依頼。専門家から連絡を受けた農水省植物防疫所も現地に赴き調査した結果、重要病害虫の一種であるテンサイシストセンチュウであることが確認されました。

 10月から11月中旬ごろまで農水省と長野県によって、発生の確認されたほ場を含む地域で、発生範囲を特定する調査のための土壌採取が行われ、現在、その解析が進められているところです。なお、地域名や作物名は「栽培者が特定される」として公表されていません。

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1カ月以上かけて行われた土壌調査の様子。ほ場全体から8歩幅(約6メートル)の格子状に土を採取する。長野県から派遣された調査士(県職員)が8歩幅の間隔で並び、8歩進むごとに土を取っていく(撮影は菊池さん)

 今は何もできないのが一番困る

 「今はまだわからないことばかり。何をしたらいいのかもわからない。何もできないのが一番困る」――原村で野菜を作るある農家は、不安な胸の内をこう話します。

 今年は、春は雨不足、夏は長雨と、「40年以上野菜を作ってきたが、こんな年は初めてだ」というほどとにかく天候が不順で、多くの野菜がおしなべて不作でした。「正直なところ、調査結果が出ないと、自分の畑でも発生しているのかわからない。不作になる原因はシストだけでなく他にもたくさんある。ごく普通のネコブセンチュウとか従来の病害虫だっているわけだから」と別の農家も相づちを打ちます。

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別の角度から撮ったもの

 いま野菜農家は来年の作付け計画を立てる時期です。農協の購入資材の申し込み締め切りも12月12日。遅くとも年明けには注文しなければなりません。「来年も今までと同じように作付けできるのか。種は買ったが作れないのでは困る。せめて調査の進捗(しんちょく)具合だけでも早く教えてほしい」というのがこの地域の農家みんなの切実な思いです。

 土壌消毒剤の登録を早く

 もし発生しているとなると、今後、生産者には発生ほ場でのアブラナ属の栽培自粛や、センチュウに効果のある土壌消毒剤であるD-D剤やネマキックなどでの防除が国・県から求められることになります。ところがここにも問題があります。原村で多く栽培されているブロッコリーやカリフラワーには、このD-Dやネマキックが登録指定されておらず、使用できないことになっているのです。「本来、農薬の登録は農薬会社の仕事なのかもしれないが、この場合は行政のリードで一刻も早く登録をしてほしい」と菊池さんは言います。

 栽培自粛も生計のかかった農家には大きな問題です。原村は標高が高いために栽培可能期間が短いことや、火山性土壌で石が多いことなどから、葉菜、果菜の特産地として発展してきた歴史があり、「ブロッコリーやキャベツは栽培自粛を」といわれても、同等の収益が得られる作物は他にないのが実情だからです。

 輸入増で病害虫も増えるのでは

 それにしてもこのセンチュウ、どこから来たのか? なぜ原村に? 農水省は「まだわからない」と言います。菊池さんは「TPPなどで植物検疫も不十分なまま野菜の輸入が増えたら、こうした外来病害虫ももっと増えるのではないか」と、危ぐしています。


人・家畜は食べても無害

テンサイシストセンチュウ

 テンサイなどのフダンソウ属、キャベツ、ブロッコリー、野沢菜などのアブラナ属に寄生し、大きな被害をもたらす、センチュウの一種。生育の遅れや黄化症状、地上部ではしおれなどが見られ、枯死する場合もある。

 メスはレモンのような形をしていて、体の中に卵を作り、直径0・6〜0・9ミリほどのシストになる(写真(1))。シスト内の卵からかえった幼虫(写真(2))が作物の根に入り込み、栄養を取られて、作物が育たなくなり、収穫量が減る。シストは乾燥や低温に強く、10年以上も生存できる。ジャガイモシロシストセンチュウなどと同様に土壌を介してまん延する。

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 人畜には無害であり、このセンチュウが付いた野菜を食べても人の健康を害することはない。

(新聞「農民」2017.12.4付)
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2017年12月

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