本の紹介
鈴木宣弘東大大学院教授著
亡国の漁業権開放
協同組合と資源・地域・国境の崩壊
漁業権の企業への開放は
国民の主権奪うと鋭く警告
農協解体、主要農作物種子法の廃止など、農業つぶし政治の急先鋒を担ってきた「規制改革推進会議」が、いよいよ水産業でも「漁業権開放論」の議論を始めました。本書は、TPPや安倍農政改革反対の論客として知られる東京大学大学院の鈴木宣弘教授による「漁業権開放論」批判の書です。
じつは鈴木教授は真珠の産地として有名な英虞湾に臨む三重県志摩市の漁村の出身とのこと。
鈴木教授は漁業権について、「漁業は、企業間の競争、対立、収奪ではなく、協調の精神、共同体的な論理で成り立ち、貴重な資源を上手に利用している。その根幹が漁協による漁業権管理である」と指摘。その漁業権を民間企業に開放したら、「資源」も、「地域」も、「国土」も持たないと強調し、この3つの論点から漁業権開放の危険性を明らかにしていきます。
また本書の冒頭では、漁業権開放論の前段ともいえる「規制改革」や「国家戦略特区」政策の真意や経過についても厳しく批判。漁業権開放論はこうした「相互扶助で中小業者や生活者の利益・権利を守る」組織や規制を“ドリルで壊し”て、国内外の特定企業へ便宜供与する政策の「総仕上げ」なのだと警鐘を鳴らしています。
アコヤ貝そうじやカキむきの補助など、浜を生活の場として暮らしてきた「当事者」として、また漁業者自らが海を共同管理することで、資源と地域とが絶妙なバランスで共生していることを肌身で知る者として、鈴木教授の発する「漁業権開放は、日本の水産資源・環境、地域社会、そして国民の主権が実質的に奪われていくという、極めて深刻な事態を招きかねない」という警告は、たいへん重いものがあります。
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▼A5判 46ページ
▼定価 750円+税
▼出版社 筑波書房
(新聞「農民」2017.11.20付)
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