地域の話題
あれこれ
福島
根本 敬
いのちを育む農民連へ
ネオニコ系農薬 規制“手つかず”
秋の気配が漂い始めた。最近、トンボが増えたような気がする。ネオニコチノイド系農薬(殺虫剤)で田んぼの昆虫が姿を消しつつある。世界的にこの農薬の規制が進んでいる。しかし、日本では規制は「手つかず」状態だ。朝、田んぼの畦畔を歩くと赤とんぼが稲穂でくつろいでいる。
その横には、米粒に斑点を残すカメムシがいる。このカメムシ防除のためにネオニコチノイド系農薬が使われる。ひと山向こうの集落ではラジコンヘリで地域全体に農薬が散布される。わが地域は、新日本婦人の会との産直米の出荷者が多数おり、ラジコンヘリでの防除は避けられている。
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稲穂にとまるトンボ |
防除のために犠牲になるもの
カメムシ防除のために赤とんぼがその犠牲になるのは忍びない。米1000粒で2粒あると等級が下がり、農家の手取りが減る。この斑点は、色彩選別機でほとんどが取り除ける。食べても「害」があるわけではない。トンボなどの昆虫がいなくなれば、鳥はエサがなくなる。いつか人間も暮らせない場所になってしまいかねない。
この夏、福島も「寒さの夏はオロオロ歩く」しかなかった。つくづく、農民は「ものをつくれない」んだなあと空を見上げた。でもオロオロ歩きながら、いままで見過ごしてきたものがたくさんあることに気付く。田んぼをわたる風の音。クモの種類の多さ。稲の葉色の変化。なんで田んぼの水持ちが悪いんだろうとふと振り向くとザリガニが両方のハサミを立てて威嚇している。近くの畔から水が漏れている。足で踏んで漏れを防ぐ。
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巣を張るクモ |
自然への対応力 どう鍛えるか
農民の技術の優劣は、「観察力」。変化を見逃さない「洞察力」。経験に裏打ちされた「知見」。自然への対応力。結局、自然の中で「いのちを育む」力をどう鍛えるかだ。効率を優先して「つくる」ではなく、時間をかけて「いのちと組織を育む」農民に私はなりたいなどと考えて歩く。
稲が首部(こうべ)を垂れ始めた。トンボがその上を舞う。ツバメが稲の葉先をさあっと突っ切る。久しぶりの日差しがまぶしい。
(新聞「農民」2017.9.11付)
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