畜産経営安定法
改定
参院農水委での参考人意見陳述
酪農家の所得向上にならない
指定団体制度を守るべきだ
北海道農民連 副委員長酪農家(厚岸町)
石澤元勝さん
酪農の指定団体を通さずに出荷した生乳にも加工原料乳の補給金を交付できるようにするなどを内容とする「畜産経営安定法」の改定案が6月9日、参議院で可決、成立しました。6日に参議院農水委員会で、酪農家で北海道農民連副委員長の石澤元勝さんが参考人として意見陳述を行いました。石澤さんの発言の要旨を紹介します。
周りの酪農家も「一体どうなるのか」
私は北海道東部、厚岸(あっけし)町で酪農をしています。酪農歴は46年です。
指定生乳生産者団体以外の販売事業者にも補給金を支給するという今回の畜安法改定法案には、とても不安を感じています。周りの酪農家からも「一体どうなるんだろう」という声を聞きます。
私は、指定団体制度は基本的には大変いいしくみだと思っています。その柱の一つは、一元集荷・多元販売、そしてもう一つの柱が「プール乳価」です。プール乳価は、飲用やバター、脱脂粉乳など用途別に違う乳代を一つの財布に入れて、集送乳運賃などの経費を差し引いて、残った収益を全乳量で割って均等に分けあうしくみです。安くしか売れない加工原料乳には国から補給金が交付されますが、それもプール乳価のなかで精算され、酪農家へと支払われています。
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意見陳述する石澤さん(右) |
指定団体通した 人の乳代は低下
しかし今回の法改定で、私たちの酪農経営がどう改善されるのか、さっぱりわかりません。
第一に、酪農家の所得向上にはならないと思います。説明によれば、「酪農家の選択肢を増やして自由に生乳を販売できれば、有利な価格になる」とされています。
たしかに指定団体を通さないで全てを飲用向けに出荷すれば、加工原料乳を含むプール乳価よりは当然多い乳代を受け取ることができるでしょう。しかし、みんなが飲用にだけ出荷できるのでしょうか。飲用乳の需要が増えるわけではないですから、結局、飲用乳の需要をオーバーした分は加工用に向けざるをえず、加工原料乳の比率が高くなる指定団体を通した人の受け取り乳代の低下となるでしょう。
第二に、指定団体が担ってきた需給調整機能はどうなるのか。かつては牛乳が過剰で売れないとして、牛乳を捨てたり、食紅を入れたりしました。牛の頭数を減らすとして、元気な乳牛をと殺処分することもありました。保存のきくバターや脱脂粉乳は不十分ながらも需給調整の役割を果たし、その調整を指定団体が行ってきたと思います。その需給調整機能をなくし、需要だけに任せてしまうことに非常に危険性を感じています。
小さい酪農家が多く残ってこそ
酪農はここ数年、生まれた子牛の価格も高く、乳価も堅調で、比較的安定した経営ができています。なのになぜ今、何のために、指定団体に手を付けなければならないのかという声が酪農家の間でも強いです。こんなことは、農協や農協組合長さん方、そして私たち酪農家も一度も要求したことなどないのです。納得いくよう政府はきちっと説明してほしい。
私はこの法改定で、指定団体が崩壊してしまうのではと危惧しています。指定団体は、大都市近郊の酪農家も、遠い酪農家もみんなで助け合う、協同組合ならではのしくみです。今後、「今だけ、金だけ、自分だけ」という社会風潮が酪農でも横行し、そういう他人の犠牲の上に成り立つようなしくみになってしまったら、協同組合組織そのものも、地域のコミュニティーにとってもたいへんなことになると思います。
今回の改定で、大規模な酪農経営だけは生き残れるかもしれないですが、牛乳の生産量さえ確保できればそれでいいのでしょうか。私は小さい酪農家がたくさんいてこそ、地域が成り立つと思っています。
(新聞「農民」2017.6.19付)
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