農業共済制度の見直し
水稲共済、果樹共済
いずれも取り崩す
政府は平成31(2019)年度から「収入保険制度」を導入する予定で準備をすすめています。この制度は新たな「収入保険」の新設と同時に農業災害補償制度を見直し、いずれかを選択することができるとしています。「収入保険」の問題点は他に譲り、ここでは見直しされる農業共済制度の問題点を指摘します。
(1)水稲共済の「当然加入」を廃止して「任意加入」にする
主食の米の再生産を可能にするためには、生産費の補償とともに、災害時の損害補てんが必要です。しかし、実際には生産費の補償がされておらず、災害時の損害補てんは、減収分の足しになっていない現実があり、災害が少ない地域では「当然加入(強制加入)」廃止は受け入れられる余地があるといえます。
しかし、「任意加入」だけでは、保険において災害を受けやすい地域の人がより多く加入する「逆選択」が起こります。掛け金が上昇し保険として維持することが難しくなることから、米、麦などは「当然加入」にしています。
水稲共済の「当然加入」を維持するためには、生産費補償と災害時の収入補てんの充実こそが必要であって、これを廃止することは水稲共済の崩壊につながります。
(2)果樹共済の「特定危険方式」を廃止して「総合一般方式」に一本化する
約4割の生産者が加入する青森県のりんご共済を例にとれば、自然災害、病害虫・鳥獣被害等、すべての災害による損害を補償対象とする「総合一般方式」への加入はきわめて少なく、割合は3%弱にすぎません。戸数にして188戸、面積で2万1774・6アールにとどまっています。
一方、暴風雨、ひょう、霜など、特定の自然災害を選択(複数選択可)し、それによる損害のみを補償対象とする「特定危険方式」への加入は圧倒的に多く、戸数6924戸、面積77万9327・4アール(戸数、面積ともに97%)となっています。(2016年産)
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ひょう害の調査の様子 |
「見直し」では、「特定危険方式」を2021年度までに廃止し、「総合一般方式」に一本化するとしています。
「総合一般方式」の加入率が極端に低いのは、共済掛け金が「特定危険方式」と比較してきわめて高いからです。「総合一般方式」の掛け金は、「特定危険方式」の約1・3〜2倍になります。
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2014年に青森県津軽地方を襲ったひょう害 |
「総合一般方式」の掛け金をどう手当てするのかを抜きにして、一本化することはできません。生産者が経済的負担と災害のリスクを勘案して選択している「特定危険方式」を廃止して「総合一般方式」に一本化することは、経営安定対策にはなりえません。
ことは生産者だけではありません。共済組合では、果樹共済の「特定危険方式」と水稲共済の「当然加入」を廃止すれば、加入者はともに半減し、共済組合の運営自体も困難になると懸念しています。いずれ共済事業の実施主体が民間保険会社に移行するのではないかとの懸念もあります。
1973年に温州みかん、なつみかん、りんご、ぶどう、なし、ももの6品目を対象に本格導入された農業共済は、その後、対象品目を拡大してきました。高齢化による離農と規模縮小、経済的負担などの理由で加入率は低迷していますが、運用面の改革をかさね、加入推進の活動を展開してきたのが農業共済の歴史です。安倍内閣は、農産物の関税撤廃をすすめながら、災害等による損害を補てんする農業共済制度も取り崩そうとしています。
(青森県農民連 須藤宏)
(新聞「農民」2017.6.12付)
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