TPP11の閣僚会合
日米FTAもTPPも
許さない運動を
深まる溝、視界不良、前途多難
ベトナムで開かれたTPP11の閣僚会合が何の合意もできずに終わりました。石原TPP担当大臣は「11カ国の結束は保たれた」と述べる一方、「閣僚声明は11カ国での発効に向けた道筋を示せる内容になっているのか」との記者団の質問に対しては「そこから先のことは発言を控えさせていただきたい」と言葉をにごしました。
またまた合意できずに終わった
実際、5月21日に公表された共同声明は「TPPの成果と戦略的・経済的意義を再確認した」と述べる一方、安倍政権が主張していた「TPP11」で早期発効をめざすという言葉は全くなく、「協定の早期発効のための選択肢を評価するプロセスを開始することに合意した」と述べているだけです。
明らかなのは、早期発効で合意できなかったこと、早期発効のための「選択肢」を今後、事務レベルで探ることに合意したにすぎないということです。5月2日に開かれた事務レベル会合は閣僚会合にゲタをあずけ、今度は閣僚が7月に日本で開かれる事務レベル会合(7月11日、箱根)にゲタをあずけたにすぎません。交渉関係者は「この程度の声明を出すのに徹夜したんだ。簡単には進まない」と吐き捨てたといいます。
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ベトナムで開かれたTPP閣僚会合(TBS系テレビから) |
深まるTPPの矛盾
閣僚会合では、むしろ溝が深まったとも言えます。
マレーシアのムスタパ国際貿易・産業相は「わが国は日本とは別のグループだ」「米国抜きで進めるなら、再交渉が必要になる」と述べ、ベトナムもこれに同調。国有企業の民営化など、アメリカの市場開放約束と引き換えに譲歩した自由化ルール見直しの再交渉を求めています。すでにTPPを承認しているのは日本とニュージーランドだけですが、「TPP承認の国内手続きを進めていく」という声明案の文言にカナダやメキシコ、チリ、ブルネイが反発。
さらに日本、ニュージーランドとともにTPP早期発効を推進している“ギャング3”の一角のオーストラリアも、TPP交渉の鋭い対立点であった医薬品特許のデータ独占期間を「8年間から5年間に短縮することを熱望している」(オーストラリアン紙、5月18日)と報じられています。
石原TPP担当大臣が「日本が米国との橋渡し役を担う」と大見えを切って各国を説得しましたが、ベトナム訪問中のアメリカ通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は「米国はTPPから離脱した。トランプ大統領の判断であり、変わることはない」と即座に拒否しました。
深まる溝、視界不良、前途多難……メディアには、こんな言葉が踊っていますが、各紙の社説は「TPP11 日本主導で道筋をつけよ」などと、政府の尻をたたくものばかり。しかも、“TPP11を実現し、TPP以上を要求するアメリカの圧力に対する防波堤にする”という安倍政権べったりの論調です。
しかし、TPPは「防波堤」になるどころか、大穴があいた決壊必至の堤防です。日本農業も経済主権も殺す毒(TPP)で日米FTAという毒を制するなどというのは、服毒自殺を図るに等しいと言わなければなりません。
「日米FTAもTPPも」―無謀な“選択肢”に打って出る危険
現に、アメリカのロス商務長官は「朝日」21日付のインタビューでTPPは「出発点」で、最終的にはTPPを上回る日米FTAを結ぶと明言し、安倍政権の「防波堤」論をあざ笑いました。
少数ですが「まずは、アメリカとの2国間でTPPを踏まえた貿易ルールについて合意し、そのうえで、TPP11カ国でも日米のルールに沿って合意するという2段構えの交渉」(政府関係者)を検討しているという報道もあります(TBS、5月22日)。
安倍首相は、日米FTAについて「決して否定しているわけではない。さまざまな選択肢を検討する」と述べています(アメリカ紙主催の講演会で、5月16日)。
共謀罪法案を強行し、憲法改悪まで公言する安倍政権が「日米FTAもTPPも」という凶暴で無謀な「選択肢」に打って出る危険があります。
平和と民主主義を求める幅広い国民と連携し、「日米FTAもTPPも許さない」運動を強め、経済主権、食料主権に立った公正・平等な貿易ルールを確立する時です。
(新聞「農民」2017.6.5付)
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