TPP生き残り?
――安倍政権のねらい
TPP11(イレブン)も日米FTAも
安倍政権の破れかぶれ戦略
死んだはずだったTPPが“ゾンビ”のようによみがえる――。ホラー(恐怖)映画まがいのストーリーの製作者は安倍政権。こんな悪あがきをするねらいは何か、TPPがよみがえる見通しはあるのか、さぐってみました。
日米経済対話を前に
首相官邸の情報たれ流しなのか、スクープなのかは不明ですが、一部のマスコミは「舞台裏」を次のように報道しました。「日米経済対話を5日後に控えた4月13日。安倍首相は、首相官邸に麻生財務相や石原TPP担当相ら関係6閣僚を集め、『国際情勢を見ながら米抜きTPPを考えよう』(と発言した)。政権としてTPP11を目指す方針を明言した瞬間だった」(「日経」4月23日)。
さらに同紙は、4人の次官級が3月に訪米した際に「米側に示した提案書に『TPP11』の文字を明記した。米側は2国間交渉を要求するが、TPP11は阻(はば)まない(という)感触を得た」と報じています。
通商交渉の「仕切り役」になった感がある麻生副首相は、同紙の単独インタビューで「日米で枠をつくりアジアの中でうまくあてはめていく」と、貿易や投資のルール作りを日米が主導する考えを表明。アメリカが「やっぱりTPPの方が良いということは十分にあり得る」と述べました。
インタビュアーは「米国がTPP離脱を表明した今、国際社会の通商・貿易のルールを中国に主導されないような仕組みづくりが必要。その両輪が日米経済対話とTPP11だ」と解説しています(「日経」4月28日)。
「TPP11も日米FTAも」 は日米合作?
やや長い引用になりましたが、安倍政権のねらいは何か。
第1に、安倍政権は当初、アメリカのインフラ整備への協力や投資などをちらつかせてトランプ大統領の歓心を買って変心を促すとともに、TPPを二国間交渉に対する「防波堤」にしようとしましたが失敗し、日米FTA(自由貿易協定)を前提にした日米経済対話とTPP11の両方を推進する方針に切り換えたことです。
第2に「最高レベルの自由化ルール」であるTPP協定を生き残らせ、他の巨大FTAの下敷きにするねらいです。
実際、TPPルールは(1)小売、金融、通信などの規制緩和によって日本企業のアジア進出が進む、(2)ISD(投資家対国家紛争解決)条項で日本企業の権益を守る、(3)工業製品の関税引き下げによって輸出が有利になるなど、大企業にとって、いいことづくめです。
第3に、「TPP11も日米FTAも」という選択肢は、日米間で合意されているフシがあることです。
ライトハイザー次期米通商代表は「アメリカ農業がTPPの恩恵を受けるはずだったことは明らかであり、TPP各国と新しい協定を交渉しなければならない。2国間交渉では、TPP交渉を上回る合意を目指す。第1の標的は日本である」と、議会で証言しています。
つまり、アメリカ・ファースト戦略を追求するうえで、TPP11は障害にならないばかりか、TPPルールを土台にして相手に譲歩を迫ることができる――これがアメリカの思惑です。
安倍政権の悪あがき戦略を許さない運動を
今後の行方はTPP11の交渉、アメリカ・中国の出方にかかっており、予断を許しません。
現に、日本に次いでTPP11に積極的とされるオーストラリア、ニュージーランド(NZ)は、アメリカ抜きのTPPで農畜産物の対日輸出拡大をねらい、チリやペルーは中国を引き込むことを主張しています。アメリカ市場の開放をあてこんで国有企業や医薬品、ISDで譲歩したベトナムやマレーシアは後ろ向きです。
5月2〜3日にカナダで開かれた首席交渉官会合は、下旬に開かれる閣僚会合にゲタをあずけることだけを決めて終わり、政府関係者は「既存の協定の内容を変えたいという意向を持つ国もあり、『課題は山積していて、解決は難しいというのが現状』だ」とこぼしています(「日経」5月5日)。会合では、日・豪・NZの「3ギャング」(NZのJ・ケルシー教授)が「TPP5」を主張して他の国と対立するなど、難航・先行き不透明ぶりは際立っています。
「毒(TPP)をもって毒(日米FTA)を制す」「11がダメなら5でもいい」という安倍政権の破れかぶれ戦略。これを許さない運動が求められています。
(新聞「農民」2017.5.15付)
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