「農民」記事データベース20170501-1261-08

地域で担い手育てる山口農園

奈良

 3月30、31日に行われた担い手づくりシンポジウムのパネリストの1人でもある(有)山口農園の取り組みを紹介します。


就農希望者の育成

公共職業訓練学校を設立し
給付金活用して就農訓練

 山口農園は奈良県宇陀市の中山間地で有機農産物の生産、加工販売を行っています。

 山口農園の特徴の一つは、県の認可を受けて2010年に公共職業訓練学校として「オーガニックアグリスクールNARA」(定員15人)を開設していることです。

 開設のきっかけは、高級スーパー「紀ノ国屋」などとの提携を進めるなかで生産量の拡大が必要となり、人の確保が大きな課題になったことです。ハローワークに求人を出して募集していましたが、求める人材とのギャップが出てきました。「報酬目的で働く人と農業がやりたくて働いている人の差に悩みました。作物を『作る』のではなく『育てる』という意識の人の方が失敗も少ないため、そういう人に来てほしかった」と山口武会長は当時を振り返ります。

 農業人フェアなどで募集を行い、就農希望者を集めましたが、十分に確保できず、自ら「有機栽培の職業訓練学校」を作りました。

 公共職業訓練学校なので、雇用保険受給資格者は雇用保険を受給しながら、それ以外でも一定の条件を満たしている人は「職業訓練受講給付金」を受けながら、生活に不安を抱かずに就農訓練を受けられます。また、地域で使わなくなったハウスを農場でもらい受け、訓練学校生の解体、組み立ての実習に活用するなど、現場の視点から実践的に有機農業を体感・学習することができます。

 新規就農希望者はまずこの訓練校で受け入れを行います。アパートを1棟、農園で所有し、学生寮として活用。半年間の研修を行っています。

研修後の独立支援

農地あっせんし販路確保も
支援卒業生の7割が各地で就農

 卒業後、希望者には青年就農給付金の準備型を活用してさらに2年間の研修を行い、その後は山口農園で正社員として就農したり、新規独立の支援などもしています。

 地元で独立した就農者は、2013年に設立した山口農園グループに加盟し、農地のあっせん、収穫物の全量買い取り、共通のパッケージ・ブランドで販売するなど、生産・販売などの支援をしています。特に農地の確保は、農園の研修用農場として3年間有機栽培を行った農地を引き渡し、すぐに有機JAS認証が取得できる条件を整えています。

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ハウスを組み立てる山口農園のみなさん

 こうした取り組みの結果、この間に送り出した200人ものアグリスクール卒業生のうち約7割が、地元宇陀市や明日香村など奈良県内をはじめ全国各地で就農しています。

 もう一つの特徴は、社長の山口貴義さんの提案で生産・収穫・調整・営業販売・加工・教育・総務の7部門に完全分業化していること。各部門の連携を取りながら安定供給に努めています。

 はじめは移動時間の無駄を省くために分業化したのですが、その結果、それぞれの専門性が磨かれ、効率の良い経営につながっています。また包装袋に連絡先を書くことで、消費者からのクレームを直接聞き品質改善を図る工夫をしています。現在の売り上げは約2億円まで伸びています。

地域活性化にも貢献

集落の耕作放棄地がゼロに
地元産の食材を使う運動生む

 他の自治体からの研修生を受け入れることで、地元の人たちが気づいていなかった資源の再発見にもつながっています。宇陀市では大阪の市場から給食の食材を仕入れていましたが、もっと地元産の食材を使おうという運動「キッチンプロジェクト」が生まれ、地域に新しい動きを起こしています。

 地域との連携を大切にしているのも山口農園の特徴です。集落と自主防災協定を締結し、降雪時に融雪剤をまくなど地域と連携しています。

 こうした取り組みの結果、地域の放棄地はゼロになり、地域振興に一役買っています。

(新聞「農民」2017.5.1付)
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2017年5月

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