「農民」記事データベース20170327-1256-01

農業競争力強化支援法案
(競争力強化法案)
の問題点

日本共産党参院議員
紙 智子さんに聞く

 「農業競争力強化支援法」案(競争力強化法案)が今国会に提出されています。同法案の中身と問題点について、日本共産党の紙智子参院議員(党農林・漁民局長)に聞きました。


農業を市場経済に投げ込む
“支援”の名による政府介入

 競争力強化プログラムの具体化

画像  昨年11月に政府の規制改革推進会議が、農協改革などを打ち出し、それを受けて、政府は「農業競争力強化プログラム」を作成しました。

 その内容は、「肥料や飼料を一円でも安く仕入れ、農産物を一円でも高く買ってもらう。そうした農家の皆さんの努力を後押しするため、生産資材や流通の事業再編、新規参入を促す。委託販売から買取販売への転換など、農家のための全農(全国農業協同組合連合会)改革を進める。数値目標の達成状況の進ちょくをしっかりと管理する」(安倍首相の施政方針演説)などとしており、それを具体化するものとして、政府は今国会に農政改革関連8法案を提出。その一つが「農業競争力強化支援法」案です。

 「競争力強化法案」は、目的で「良質かつ低廉な農業資材の提供および農産物流通等の合理化の実現を図る」ために、「国の責務や講ずべき施策」を定め、農業者の競争力強化の取り組みを支援するとしています。

 具体的には、コスト高の要因となっている肥料・農薬などの規制の見直し、中小メーカーの事業再編、農産物の販売では消費者への直接販売の促進、零細な流通業界の再編・合理化などを掲げています。

 関連業界の再編・合理化については、国が「実施指針」を定め、それに沿った「再編計画」を業界に作成させ、事業譲渡や設備増強などを行う企業を金融・税制面で支援する仕組みを導入します。

 さらに、国が資材価格や農産物販売などの状況を5年ごとに調査したうえで、「競争力強化」の観点から必要な措置をとることも定めています。

 また、10条で「国は、農業者または農業団体が農業者に供給する農業資材の調達を行うに際し、有利な条件を提示する農業生産関連事業者を選択するための情報を容易に入手することができるようにするための措置を講ずる」とし、13条で「国は、農業者または農業団体による農産物の消費者への直接の販売を促進するための措置を講ずる」と定めています。

 全農の事業を解体・縮小し、 民間が参入

 法案のねらいは、昨年の規制改革推進会議で安倍首相が次のように述べているところに現れています。

 「農業を成長産業とするには、農業者が自由に経営できる環境と、生産資材、流通加工を担う業界全体の効率化や再編が重要。中でも役割の大きい全農が変われば、関連業界も大きく変わっていく。全農改革は農業の構造改革の試金石であり、新しい組織に全農が生まれ変わるつもりで、その事業方式、組織体制を刷新してほしい」

 これは、協同組合としての全農を解体・縮小させるもので、安倍首相が兼ねてからねらってきた「岩盤規制」を破壊していくことの一環だと思います。

 最大の問題点は、この法案が「農業版競争力強化法」と位置付けられているように、農業を市場経済に投げ込んで、国際市場で競争させることを前提にしていることです。そのために、農家と農業団体に努力義務を課して、政府が上から押しつけようとしています。

 法案の中身をみると、5条で「農業者(農業者団体)は、有利な条件を提示する農業生産関連事業者との取引を通じて、農業経営の改善に取り組むよう努める」と定めています。農家の協同組合である農協と民間事業者を同列視して、農家の協同の取り組みを弱体化させるねらいがあります。

 これは、協同組合としての共同購入、共同販売の否定につながりかねず、単協(地域農協)と全農の利害対立をあおり、農協組織全体の購買事業つぶしをねらったものです。

 所得の向上、 資材・肥料引き下げの効果なし

 支援法案の概要では、「資材コストの引き下げ」を掲げています。これは農家にとって切実な問題であり、改善しなければならない点もありますが、いつ、どのようにその効果が発揮されるのか、やってみなければわからず、その保証はありません。資材の規格や流通構造は、生産現場の要求を踏まえながらいまの形になったわけで、上から「再編」してうまくいくのか大いに疑問です。

 さらに「肥料価格を引き下げる」と言いますが、いまなぜ高いのか分析が必要です。日本では、土壌に合わせてきめ細かく使うことで、品質のいい農産物をつくってきたのです。無理やり肥料の価格を下げて、品質が悪くなったら、きめ細かく対処できなくなり、政府や自治体が進めるブランド化、高品質化に反することになりかねません。

画像
いよいよ田植えが始まります

 「競争力強化」を強調しながら、「農業所得の向上」については、わずかに5条の「農業者等の努力」のところで、「農業者団体は、農業者の農業所得の増大に最大限の配慮をするよう努める」とされ、農協などに努力を求めているだけです。

 その一方で戸別所得補償を完全に廃止し、生産費を償うことは全く念頭にない収入保険を導入するなど、価格保障を解体するわけですから、“政府は手を引くけど、農家や農協は頑張れよ”といわんばかりです。

 安倍首相は施政方針演説で、「攻めの農政の下、40代以下の新規就農者は2年連続で増加し、足元では、統計開始以来最多の2万3千人を超えた。生産農業所得も、直近で年間3兆3千億円、過去11年で最も高い水準まで伸びた」と自画自賛しました。

 しかし、これは安倍首相の実績ではありません。私も国会で「農業所得が増えたのは、戸別所得補償制度があったため。青年就農の増加も民主党政権下につくられた青年就農給付金制度の結果」だと指摘しました。

 与党は、農政改革関連8法案の今国会での早期成立をねらっています。十分な時間をとって審議することを求めるとともに、みなさんの運動と手を携えながら、法案の具体的な中身を明らかにし、農業と農家にとってどんな問題があるのかを追及していきたいと思います。

(新聞「農民」2017.3.27付)
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2017年3月

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