「農民」記事データベース20170313-1254-10

東大阪・広がる啓発協議会の
「ファームマイレージ2」運動

地域の農産物を食べ
農業と農地を守ろう

農家・行政・市民・農協が一体で


お客さんは地元の農産物求めて
生産者も新鮮さとおいしさ訴え

 大阪府東大阪市で都市農業を守り、振興する取り組みが注目されています。市・農協・農業委員会などで構成される「東大阪市農業振興啓発協議会」(啓発協議会)が進める「ファームマイレージ2」運動は、農家、行政、市民、農協が一体となって取り組んでいます。

 野菜プレゼント 感謝状贈られる

 「ファームマイレージ2」とは、近くの畑の野菜を食べることで、野菜が育つ畑を守る(増やす・残す)システム。啓発協議会が「地域の産業を地域に住む人とともに無理なく守っていく」ことを理念に発案し、運動として進めています。「ファーム」には「育てる場」、「2」には「距離×距離=面積(2乗)」という意味が込められています。航空会社のマイレージが、飛行機の利用者に搭乗距離に応じて特典を与えるのと同じように、東大阪の農産物を買うことで、特典がもらえる制度です。

 2009年から「ファームマイレージ2」の取り組みが始まりました。その仕組みは、農薬・化学肥料の使用を基準値以下に抑えたエコ農産物にラベルが貼られます。直売所や朝市で販売しているラベルを48枚集めると「地元の農地を守った」お礼として、新鮮野菜(300円相当)のプレゼントや啓発協議会から感謝状が贈られます。

 さらに感謝状を10枚集めると、「畑を約50平方メートル守った」として、表彰状と記念品が贈られます。

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「ファームマイレージ2」運動をアピールするJAグリーン大阪の直売所「フレッシュ・クラブ」本店

 農薬使用を控え安全・安心追求

 「農家が農薬・化学肥料の使用を控え、栽培記録を記入するなど、農産物の安全・安心を追求し、意識が消費者の方を向くようになりました」。市経済部農政課の中洲俊昭総括主幹は、取り組みの効果をこう強調します。

 市内で、エコ農産物認証制度を申請する農家は年々増え、作物の種類も年を追うごとに豊富になっています。

 中洲主幹はさらに、「この取り組みを実施することで、行政も畑に足を運ぶようになりました。農家とのコミュニケーションが今まで以上に親密になり、お互いの信頼関係も構築されています」と語ります。

 「エコ農産物を栽培・出荷するエコファーマーが増えたことが一番」。60年以上市内で農業に従事し、無農薬・無化学肥料で1600平方メートルを耕す田中幸雄さん(84)は喜びます。「栽培方法などで農家同士の交流も増えたし、消費者のためにも旬の野菜を多く提供していきたい」と、ホウレンソウ、シュンギク、小松菜などの野菜づくりに力が入ります。

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ホウレンソウを栽培中のハウスの中で田中幸雄さん

 田中さんも出荷するJAグリーン大阪の直売所「フレッシュ・クラブ」本店。同JA営農経済部の木積一公次長は、「市民の間で市内の農地を守っているという自覚とともに、安全・安心でおいしいという評価が5、6年前に比べて浸透してきました。お客さんは地元の農産物を求めているし、私たちも新鮮さとおいしさをアピールしています」と胸を張ります。

地元エコ農産物買えば特典も

 地元に目向けて地元シェフ参加

 毎週土曜日に買い物に来るという市内在住の主婦、春日真理子さん(40)は、「子どもの健康のためにも地元の野菜を積極的に食べるようにしています。商品には生産者の名前も入っているし、スーパーとは違いますね」と期待を寄せます。自転車で買い物に来た70歳の女性は、「ラベルを集めています。これなら安心して買えるし、わかりやすいわね」と、買い物かごいっぱいに話していました。

 運動が広がるなかで、積極的に参加するレストランやカフェ、酒蔵なども増えています。フランス料理店「ふれんちん」のシェフ、白山登茂和さんも理解者の一人。

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東大阪産野菜たっぷりのメニューが好評。「ふれんちん」のシェフ、白山さん

 東日本大震災以降、「地元に目を向けなければいけない」と運動に賛同し、マルシェやこどもスマイルレストランなど店内でのイベントの実施、料理教室の講師を務めるなど、東大阪の農産物の良さを普及することに尽力。お客さんやイベント参加者には「東大阪の農産物を食べることで、市の農業も農地も守れます」と訴えています。

 楽しくみんなで取り組む運動

 市の総力をあげた取り組みの「ファームマイレージ2」。和歌山大学名誉教授で大阪農業振興協会の橋本卓爾理事長は、こう評価します。

 「この運動の特徴は、できることを楽しく、みんなで取り組んでいることです。一昨年に『都市農業振興基本法』が制定され、昨年は『都市農業振興基本計画』が策定されました。都市農業を守り、育て、発展させるためにも、都市農業を支える都道府県や市町村が地域の実態を踏まえながら、創意・工夫にあふれた対策を実施することが求められています」

(新聞「農民」2017.3.13付)
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2017年3月

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